T君、ビッグ・チャンス逃す!
−まずは友達から−
 
 
 
act 1
 
 
 これからお話しすることは実話である。恐らくこれも我が部に伝わる拳法秘話の一つとなって、末永く伝えられることだろう。
 
 
 去る9月11日夕刻、AとBとT君は、拳法の昇段試験を無事に終え、国分寺駅そばの居酒屋「鬼無沙」に来ていた。C先生も一緒であった。
 はじめ、昇段を祝って互いの杯を酌み交わした。部の話、拳法の話など真面目な話が一通り済むと、次はC先生の過去、現在、将来の話題になった。先生は僕らより2、3歳上といつも爽やかに言っておられたが、実は30過ぎという噂だった。歳のほかにも、先生には小さななぞが多かった。
僕は前々から気になっていたあることを酔ったふりをして訊いてみた。先生の「将来」のことである。先生も酒の勢いで話されるかと思われたが、案外口は固かった。先生が結婚されたのは、それから何年もしてからだった。美しく、芯の通った女性だった。まるで関係ないが、先生の「ふぅ〜ん」という口真似が僕らの間で流行していた。
 しばらく飲んで、山梨まで帰らなければならない先生は、僕たちに「お祝い金」を残して先に席をたたれた。
「いや〜、ほんとにいい先生だよな!」と、僕らは心底、いや胃袋の底から感謝しつつ、酒を注文した。
 さらに時が過ぎると、僕らの話題はやっぱり女性関係に入っていった。今ここに、とってもハッピーなAと、とっても淋しいT君がいる。僕たちは、世の中がいかに不公平にできているか話し合い、どうしたらみんなが幸せになれるかを論じ合った。
そして、運命の悪戯ともいうべき事件が起こった。
 
 その日は日曜日で、店内もそれほど混んでない。客はまばらで、空席が目立っていた。いつの間にか、一つ向こうのテーブルにふたりの女の子が座って話をしていた。
ちらちらと何となく視線を感じながらも、僕らは先程からの話の続きに興じていた。
「N大の人ですか?」
突然、彼女たちの一人が僕たちに声をかけてきた。
「えっ、何?」と動揺しつつも、T君が素早く「大学生ですか?」と尋ね返すと、彼女たちは違うと言いながら指を1本立てて見せた。
大学生ではない。では、あの指は何だろう?
彼女たちは言った。
「高1よ!」
「高1がなんで居酒屋で飲んでいるんだよ!?」と内心驚きつつも何とか平静を装い、しかし、僕らは、高校生にナンパされてしまったのだった。