「ただいま〜!」
夏の太陽が西に傾き、カナカナとヒグラシがあちこちでわめいている。
ボクが自転車を降りたとき、ちょうど父ちゃんが家の隣の畑からもぎたてのナスビをかかえて来るところだった。
「ずいぶんと焼けたとね〜。魚は釣れたと?」
そう訊く父ちゃんにボクは、魚籠の中のカレイやメゴチやキスを自慢げに見せた。
「今日は、大漁たい!」
ボクは、魚籠をもって家の中に駆け込んだ。
「とんとんとん…」と、台所の方から夕食の支度をする音と匂いがした。
ボクはそこ目がけて勢いよく飛び込んだ。
「ハイッ、今晩のおかず!」
「まぁまぁ、たんと釣ったとね〜。すごか量たいね」
母ちゃんもびっくりするくらい、その日はよく釣れた。
母ちゃんが驚くのを聞いて、居間でテレビを見ていた妹と弟もやってきた。
「触る!触る!」と小さい弟が騒ぎ、妹は妹で「キャーキャー」叫ぶので、一変に家中が騒がしくなった。
日が落ちて、いつかヒグラシの声が止み、気の早いスズムシが鳴き始める頃、食卓を囲む家族団らんのひとときとなった。家族が一緒にいること、それだけでうれしかった少年の夏が、過ぎていく。
そんな当たり前の日本の日常が、この20年くらいの間にすっかり夢になってしまったような気がした。