「海になみだはいらない」
 
 
著者:灰谷健次郎
 
 
 主人公は小学4年生の章太。章太には昔漁師だったトクじじいという祖父がいて、半農半漁だった昔の島の暮らしや海の中での泳ぎ方などを教えてくれる。トクじじいの自慢は、章太の兄の武。海育ちの武は水泳が得意で、オリンピック選手の候補にもなっている。武は将来、父の後を継いで島で農業をしようと思っている。
 また、ある日、章太のクラスに町村佳与という都会育ちの女の子が転校してくる。道端のへびを見て泣くような女の子が、章太やトクじじいと海で過ごすうちに、島の子以上に島の子になってゆく。
 こうしたいくつものエピソードが次々と展開するなかに、祖父や兄や友達や先生や父母との心の交流がきちんと描かれ、少年が成長してゆく姿に清々しい感動を覚える。
 ときどき、この本が無償に読みたくなる。章太の揺れる心にかつての自分をだぶらせながら、いつの間にかどこかに置き忘れてきた少年時代の素直さを取り戻そうとしてしまう。
 
 
(新潮文庫)