「夜のプレイリスト」というNHKFMの番組がある。2015年から放送しているらしいが、僕が聴き始めたのは、2019年から。夕方6時からの再放送をたまに早めに帰る車の中で聴いている。再放送とは知らず、「まだ夕方なのに夜のプレイリストなんだ?」とずっと不思議に思っていた(笑)。週替わりのパーソナリティが、人生と共にあったイチオシアルバム5枚を毎日、1枚ずつ紹介する番組である。これまでに聴いたのは、野宮真貴(歌手)、田淵久美子(作家)、山本一力(作家)、渡部陽一(戦場カメラマン)などで、幅広い人選とその人らしさを感じるエピソードが楽しい。「このアルバムを聴いて気に入ったら、あなたの音楽ライブラリーに加えて」というのが、この番組のキャッチフレーズである。僕のCDラックにも、ニコレット・ラーソンとトゥーツ・シールスマンが加えられた。と、長々と前置きしたのは、もし自分が5枚選ぶとしたら、「ヨシュア・ツリー」は候補になるだろうと思ったからである。

 U2を初めて聴いたのは、たぶん「ニュー・イヤーズ・デイ」(83)だと思う。高校1年だった僕は、土曜日深夜に放送していた「全米トップ40」をメモ書きして、月曜日にクラスメイトのS君とリストの穴埋めをしながら、あーだこーだと半日くらい洋楽談義に花を咲かせていた。その中に、この曲もあったと思う。当時は、特別好きというほどではなかったが、気になるバンドではあった。そして4年後(1987)、伝説的な名盤「ヨシュア・ツリー」が誕生することになる。このアルバムで僕は心を鷲づかみにされた。他の誰とも似ていないエッジのギター、そして情感のこもったボノの歌声に何度、感涙したことだろう。過去のアルバムやロードムービー「RUTTLE AND HUM」などを通じて、まだ見ぬアメリカに憧れを抱いていたものである。実際に彼らの来日公演をみたのは、「ZOO TV TOUR」(1993)と「VERTIGO TOUR」(2006)、そして13年ぶりの今回で3回目になる。しかも、今回は、名盤「ヨシュア・ツリー」を完全再現したライブである。これは奇跡としか思えない!

 セットリストにあるように、はじめの5曲は、彼らの初期ヒット曲である。そして、アルバムと同じく「Where the Street Have No Name」から「ヨシュア・ツリー」の幕開けとなった。巨大スクリーンに映し出されたのは、アメリカ西部、おそらくアリゾナ州の砂漠地帯を走るフリーウェイであろう。1990年のアメリカ一人旅で、留学中の友人Kとシボレーを飛ばした道と同じかもしれない。そんな風に思いながら、青年期の記憶と音楽とが交錯し、感情が爆発し、高揚した。アメリカ進出したU2は、この曲から快進撃を続け、世界的ビッグスターになったのだ。移民の国アメリカをアイルランド人の視点で開拓していく音楽の旅は、とても深遠な物語でもあった。スクリーンには様々なメッセージが投映され、音楽とのコラボレーションが楽しめる仕掛けになっていた。日本語も頻繁に使われ、「愛は行く手を遮る全てを凌駕する」といったフレーズも力強く迫ってきた。終盤には、世界的に活躍する女性たちの写真が映し出された。10月に亡くなった緒方貞子さんの写真もあったし、10代の環境保護活動家、グレタ・トゥーンベリさんの姿もあって、U2は変わってないなと思えて嬉しかった。彼らは、初期の楽曲「Sunday Bloody Sunday」でも政治的なメッセージを謳っていたが、ビッグアーチストになった今でも彼らの信念に揺るぎはない。なかなかできることではないだろう。

 最近、気になっていること。一瞬で人を不愉快にさせ、不安にさせ、不信感を抱かせる人。そんな人もいれば、一瞬で人を楽しませ、前向きにさせ、勇気づける人もいる。人は窮地に立ったときに本性が現れる。いざという場面で、自己弁護を口にする人と、他者のことを思いやる人と、どっちがより成熟しているか、火を見るより明らかである。平時はいいのだ。きれい事は誰にだっていえる。しかし、いざとなったときに、自分の信念を持ち続けるには、強い意思と覚悟がいる。強靱な精神的がなければ脆く崩れてしまう、そんな姿を何度もみてきた。このライブのあった12月4日、とても悲しいニュースが世界を飛び交った。アフガニスタンで平和活動をしていた中村哲氏が銃殺されたのだ。そのことについて、ボノがステージ上で語った。「偉大な中村医師を追悼するひとときを持とう。ケータイをキャンドルにして、このステージを大聖堂に変えよう」。そう呼びかけて、「プライド」を歌った。キング牧師暗殺を歌った曲である。満点の星空のように美しく、悲しくも感動的なステージだった。この瞬間だけでも僕は大満足できた。きっとこの感動を、この先の人生で何度も思い返すと思う。ボノは「信頼できる人」だと改めて思えた。それは容易なことではないと思うからこそ、深い感銘を受ける。

 もう20年近く前になるが、江ノ電もなかを開発した扇屋店主の杉並さんに言われた言葉。「はたらくってのは、端が楽になることなんだよ」を時々、思い出す。そして、最近になって、ふと思った。「はたらくとは、端が楽しくなること」でもあるんだと。「一億総活躍社会」とか「働き方改革」とか、キャッチフレーズばかりが先行している感がある。しかし、いびつな年齢構成やグローバル競争が激化する世界情勢において、待ったなしの課題には違いない。自分自身が納得できる「働き方」を模索し続けていくためにも、すばらしい音楽や映画、本、人に触れていなければ、と思う。

Set List
01 Sunday Bloody Sunday
02 I Will Follow
03 New Years Day
04 Bad
05 Pride(In the Name of Love)
06 Where the Street Have No Name
07 I Still Haven't Found What I'm Looking For
08 With or Without You
09 Bullet the Blue Sky
10 Running to Stand Still
11 Red Hill Mining Town
12 In God's Country
13 Trip Through Your Wires
14 One Tree Hill
15 Exit
16 Mothers of the Diappeared
17 Angel of Harlem
Encore
18 Elevation
19 Vertigo
20 Even Better Than the Real Thing
21 Every Breaking Wave
22 Beautiful Day
23 Ultra Violet(Light My Way)
24 Love is Bigger Than Anything in its Way
25 One

♪U2
「THE JOSHUA TREE TOUR 2019」
さいたまスーパーアリーナ
2019年12月4日(水)19:35-22:00/Nゲート2列135番