友人に誘われて行った。と、わざわざ書くのは、自分一人ではまず行かなかっただろうから(笑)。そもそも東儀さんをあまり知らなかった。雅楽というものにもさほど興味がないし、そもそも日常的な接点がない。せいぜい神前式結婚式で聞くことくらいだが、そういう機会も一生のうちに数えるほどだろう。ということで、期待値ゼロであった。雅楽をよく知らない人ばかり、ということを見越してか、2部構成になっていた。第1部が雅楽についてのレクチャー、第2部がコンサートという痒いところに手が届く親切設計である。これが功を奏し、とても楽しめた。どちらかだけではダメで、両方あって初めて雅楽の世界に入り込めたように思う。レクチャーの中で、篳篥(ひちりき)が西洋に伝わってオーボエになったとか、笙(しょう)がパイプオルガンになったという初めて聞く話に驚かされた。日本という国は、物や文化の多くを中国や西洋から取り入れて発展してきたという歴史認識でいるが、日本独自のものもある、そのことをもっと知るべきだということを東儀さんは、強く語っていた。それにしても最大の驚きは、東儀さんの「俺様キャラ」だった(笑)。「人は見た目が9割」と言われることもあるが、それでいうと、東儀さんは、「インテリ風のちょっと気障なダンディー」といった印象(元々よく知らないので、いい加減な印象に過ぎないけど…笑)。今年(2019)、還暦だそうだが、その発言に会場がどよめくと、「見えないでしょう?」と薄笑いを浮かべていた(前から3列目の中央だったので、表情までよく見えた)。「篳篥(ひちりき)という楽器は、アマゾンでも簡単に買えますよ。でも、この楽器はね、そう簡単には吹けません。努力すれば何とかなるというものでもありません。僕がこれほど上手なのは、才能があるからなんです。ざまーみろですよ(笑)」てな感じなのである。
 東儀さんは、奈良時代から1300年続く雅楽を世襲してきた楽家の出である。とはいえ、世襲しなければというしばりはなかったようだ。ロックミュージシャンに憧れていた東儀青年は、雅楽師の祖父に教わる中で、出自の責任や誇りに目覚めていったようである。著作「すべてを否定しない生き方」を読んでみると、タイトルに東儀さんの生き様がよく表れていることがわかる。「すべてを肯定する」では重すぎるし、強迫観念にもなりかねない。しかし、「すべてを否定しない」であれば、もっと自然で無理がないということである。決して楽ではなく、自分の価値観をしっかりもち、好き嫌いもはっきりする必要がある、と書かれている。コンサート中のMCで、小学校の教科書から古い唱歌が消えていっている現状について語っていた。その理由が「子供たちがよくわからないから」ということに怒っていた。「優しく話してるけど、かなり怒ってます」と言ってたが、僕も同感である。考えが浅薄で、非常に短絡的としか思えない。
 少しずれるかもしれないが、伊藤忠商事(株)の元社長、丹羽宇一郎氏の著書「人は仕事で磨かれる」の中に次のようなことが書かれていた(以下、抜粋)。「残念なことに世の中は『知の衰退』の時代になってきた。物事を体系的に考える力や想像力が枯渇してきている。インターネットは断片的な知識を得るには適しているが、論理的な要素がない。『知の衰退』の大きな要因の1つは、本を読まなくなったこと。本を読みながら行間を想像したり推測したりといった感性がない」。
 東儀さんと丹羽さんの言っていることは、同じだと思う。わからないことを子供なりに考えたり、想像したりする時間がとても大事なのだと思う。わからないことに出くわすとすぐネットで答えらしきものを見つけて満足することが日常になってしまうと、延々とあーだこーだ考える時間が無駄なことにみえてしまうかもしれない。考えているだけでは何も結果が見えないから、あくまで想像しないとその価値に気付くことができない。子供だけではない。大人も同じで、すぐ結論らしきことを断言する輩がいるが、その中身がまるで短絡的あるいは狭量的だったりして、とても気が滅入ってしまうことがある。自分がわかってないこともあるかもしれないとか、相手はどういう思いでいたのだろうとか、そういった想像力が欠如してくると、きっと社会はとてもギスギスしてくるに違いない。自ら考えることを放棄して、例えばAIに考えさせて、本当にそれでいいのだろうか、甚だ疑問である。
 今日(令和2年1月11日)、プールで小学3年生くらいの男子らが話していたのは、週に3回サッカーがあって、塾もあって、金曜日だけがフリーだって話だった。たぶん、そういう子供だけではないだろう。でも、そういうハードな生活をこなせる子供だけが競争社会で勝ち残っていけるように思えた。ある種の淘汰のようにも思えたが、そういうタイプの人間だけが支配的になっていくことで本当に幸せな社会を創造していけるのかな、という不安も感じてしまった。
 東儀さんのコンサートに行ったことで、あーだこーだ考えることができた。友人には改めてお礼を言いたい。ありがとう。また、誘ってください!

♪東儀秀樹
「雅楽の世界」
やまと芸術文化ホール SiRiUS
2019年10月19日(土)14:00-16:20/1階3列20番