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「帝国ホテル 厨房物語」
著者:村上信夫
日経新聞に連載された「私の履歴書」が本になったものである。まさしくひとつの人生がギュッと凝縮された自伝で、たいへん読み応えがある。
村上信夫さん(1921−2005)は、49歳という若さで帝国ホテルの取締役総料理長になった。かなり著名な人で、村上氏を師と仰ぐ後輩は、有名な三國清三さんを始め、全国にわんさかいるらしい。
村上氏の人生は、しかし、決して順風満帆だったわけではなかった。尋常小学校5年生のときに相次いで両親を亡くし、6年生から当時浅草にあった「ブラジルコーヒー」というレストラン・喫茶店に小僧として住み込み、働き始める。5つ下の妹は別の家にもらわれ、まさに孤児になった村上少年は、しかし、決してくよくよすることがなかった。若干12歳の少年が、腕の立つコックになろうと奮い立っていたのである。まさに波瀾万丈の人生で、よくぞここまでやったなというくらい「努力の人」なのである。しかも、不思議なことに、スゴイからといって、殿上人という感じがなく、とても親しみが湧く人柄なのである。
村上氏は戦時下には中国に出兵し、終戦後はシベリア抑留となっている。危うく命を落としそうにもなるが、運よく帰国することができた。東京オリンピックが開催されたときには、選手村の料理長も務めている。とにかく、人一倍一生懸命に働き、日本のフランス料理の礎を気付いたのだった。
村上氏は書いている。「真心を込めて料理を作り、お客様にお出しする。この基本は慣れや惰性で忘れがちになる。この気持ちを持ち続けるのは極めて難しい」。当たり前のことかもしれないが、本当に大切なことだと思う。
「夢は持ち続ければ、必ず実現する」の言葉でこの本は結ばれている。そうだ、しっかり夢をみようって気持ちになった!
(日経ビジネス人文庫)
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