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「サステナブルビジネス」
著者:出雲充
出雲氏は、株式会社ユーグレナの代表取締役社長である。同社の創業が弱冠25歳のときだからスゴイ!ユーグレナは微細藻類ミドリムシの学名で、5億年以上前から地球に棲んでいるという。植物のように葉緑素をもち、なおかつ動物のように動き回れるという理想的な進化を遂げている、というか、そういう生物だから淘汰されず生き残ってきたというべきかもしれない。豊富な栄養素をもつユーグレナはサプリメントとして販売されているが、個人的に衝撃を受けたのは、ジェット機の燃料が作れることだった。いつかは枯渇する化石燃料を使って、しかも、大量のCO2を放出するジェット機が日夜世界中を飛び回っていることに不安と後ろめたさを感じていたのだが、新たに燃料を作れることを知って心よりエールを送りたい気持ちになった。感激のあまり、数年前の子供の就活時にユーグレナ社を勧めたくらいだが、実のところ、自分が入社したい気分なのである(笑)。
国連がSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を採択したのは2015年だが、以降、サステナブルという言葉が頻繁に使われるようになったと思う。個人的には、うん10年前の学生時代に、研究室ゼミでLISA(Low
Input Sustainable Agriculture)という米国の取り組みを知ってから、サステナブルという視点に関心をもっていた。30代の頃に、次世代に続くための研究会を立ち上げたことがあったが、それもまさにサステナブルが目的だった。内田樹著「サル化する世界」のコピーのように、「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」になったら、世界に明るい未来はこないと思う。出雲氏が本書の冒頭で述べているように、現在の資本主義下のビジネスは、利益を追求する一方で、発展途上国の資源収奪や低賃金労働という問題が生じていて、「幸せではない人たちがいる社会は持続的ではない」という考え方がユーグレナの起点となっている。これは斉藤幸平著「人新世の『資本論』」でも展開されている論調であり、個人的にとても共感できる主張である。
本書の中で、出雲氏は、「2025年に価値観の大転換が起きる」と大胆に予想している。2000年以降に成人した「ミレニアル世代」が生産年齢人口の過半数を占めるのが2025年で、そこで資本主義的価値観からサステナブル的価値観に主流が変わるというのである。そもそも出雲氏がユーグレナ創業の着想を得たのは、18歳のときバングラディッシュで出会ったムハマド・ユヌス氏からソーシャルビジネスを学んだからである。ユヌス氏はグラミン銀行の創設者として知られている。従来の銀行は、信用できる相手に担保をとって資金を提供するものだが、ユヌス氏は信用を測ることをやめ、貧しい人たちを信頼し、無担保で融資する銀行を創出し、しかも、ほぼ100%が返済され、約900万人の人が豊かになったという。この活動が認められて、ユヌス氏は2006年にノーベル平和賞を受賞している。「信頼からスタートする経済」は従来の常識に反するビジネスモデルであるが、未来に希望がもてる斬新な取り組みに思える。
僕がこの本を読むキッカケとなったのは、たまたまNHKの番組に出雲社長が出演していて、ユーグレナ社が取り組んでいるCFO(最高未来責任者)制度を知ったからだった。初代CFOは、17歳の女子高生である。彼女を筆頭に10代の子供たち9人(最年少は小学生!)が議論し、会社に対して提言するのだが、その提言を受けて会社も実行するという。ダイバーシティが重要と言われてはいるが、ここまで本気で取り組んでいる会社はまだ少ないに違いない。バブル崩壊後、失われた30年とも言われているが、今までの延長線上にはない未来を創っていくためには、こうした斬新な発想と行動力が必要なのだろう。世界のトップ10%の富裕層が富の82%を保有する(2019)のはおかしい。確かに必死に働いた人が富を得てもいいとは思うが、それが他者の犠牲の上に成立していることだけは忘れてはならないと思う。
(PHP研究所)
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