もう何度かあちこちに書いているが、僕が洋楽に目覚めたのは中学生のとき。学校の昼休み終了時に流れるビリー・ジョエルの「HONESTY」、午後の授業終礼とともに放課後を告げるビートルズの「The Long And Widing Road」を毎日聴いていた影響は小さくないだろう。当時こそ特別な思い入れはなかったが、今に思えば、2曲とも珠玉の名曲であり、すばらしい選曲である。「誰もが正直じゃない世の中で、君には誠実さを求めるよ」という歌詞は、中学生の頃より今の方がより深く響いてくる。ポールが作った歌詞の方は、「僕の人生も、きっと長く曲がりくねっていくんだろうなぁ」と子供ながらに感じるものがあった。その頃流行っていたのが、ポリスの「Everythig Little Thing She does is Magic」だったが、当時は、さほど好きではなかった。スティングのクセのある甲高い声も風変わりなメロデューラインも取っつきにくく、同じ頃にヒットしていたホール&オーツの「Kiss On My List」や「Private Eyes」の方が断然好みだった。アンディ・サマーズの独特のギターリフやスチュアート・コープランドが叩くドラムの唯一無二のカッコよさには全く気付いてなかった。今は大好きこの上ない。「彼女のどんな小さな仕草も魔法のようだ 彼女のすることすべてが僕を惹きつける」という歌詞に込められた恋愛の神秘も味わい深い。気付くか気付かないか、ほとんどはそれで決まる!
 定時にスティングが一人で現れ、弾き語りで歌った。ギター1本と声だけで、すごい存在感だった!そのあと息子のジョー・サムナーの弾き語り。風貌も背格好も声もスティングそっくりだが、似て非なるものと云わざるを得ない。曲が「普通」だし、歌に何かが足りない。サムナーに続くサポートバンドの演奏はわりとよかった。40分ほどの前座と20分ほどの休憩を挟んで、再びスティングが登場した。1曲目の「Synchronicity Ⅱ」からアリーナは総立ちになったようだ。観客を一瞬で燃え上がらせるパワフルさがスゴイ。バンドメンバーは、スティングの他は、ドミニク・ミラー(G)、ルーファス・ミラー(G)、ジョシュ・フリース(D)と息子が時々参加という小さなバンドであるにも関わらず、途轍もない迫力だった。3曲目には、人気の高い「Englishman In New York」。今までに飽きるほど聴いているが、やはり生は格別である。この数曲で武道館はすっかりスティング色で染まってしまった。そして、4曲目が新曲である。「13年ぶりのロック・アルバム」といわれる新作からのファースト・シングル。スティングらしい曲調でなかなかカッコいい。それにしても全く無駄のない濃厚な選曲。それができるだけの十分な名曲の数々がポリス時代からソロにかけて豊富にあり、ベスト・オブ・ベストなライブが繰り広げられていった。
 初期のポリスはかなりパンクな感じで、個人的にはあまり好みではないが、トリオならではのよさが際立っているのはむしろ初期かもしれない。ベース、ドラム、ギターというシンプルさゆえに、1つ1つの楽器が奏でる音に集中できる。音と音の隙間さえ、気持ちよく聴こえてくる。徐々に洗練され、楽曲もメロディアスになり、ソロ以降成熟していく様は、まるで人間の一生をみるようで興味深い。円熟した作品だけでなく、初期、中期を含めたトータルな選曲によって、人間の幅や奥行きが感じられるライブだった。65歳でこんなに元気でいられるという事実は、我ら中高年にとっては大いなる励みである。会場を埋め尽くした中年から初老の男たちにとって、スティングは永遠の憧れといっていいだろう。そして、女性たちにとっても永遠のアイドルに違いない。
 昨年から車通勤になって読書量が激減したが、ここんところはちょっとずつ「渋沢栄一の『論語講義』」を読んでいる。その中に次のような一節があった。「君子は、協調性に富んでいるが雷同はしない。小人は、雷同はするけれども協調性には欠けている。」要するに誰の利益を考えている人間なのか、ということなのだろう。まさに至言である。「人のため」という大義を掲げて自分事を優先している人を見ると、とても残念に思う。見ている方が恥ずかしくなるくらいカッコ悪い。そうせざるを得ない事情があったのかもしれないが、カッコ悪すぎだろう。いや、自分だって気をつけねばなるまい。もっともっとカッコいい人間になりたいなぁと、スティングを見ていると思わずにいられない…。

♪Set List
01. synchronicity Ⅱ
02. Spirits in the Material World
03. Englishman In New York
04. I Cna't Stop Thinking About You
05. Every Little Thing She Does Is Magic
06. One Fine Day
07. She's Too Good For Me
08. Mad About You
09. Fields of Gold
10. Petrol Head
11. Down, Down, Down
12. Shape of My Heart
13. Message In A Bottle
14. Ashes to Ashes
15. 50,000
16. Walking on the Moon
17. So Lonely
18. Desert Rose
20. Roxanne
21. Ain't No Sunshine
encore

21. Next to You
22. Every Breath You Take
encore
23. Fragile


♪STING 57th & 9th tour with Joe Sumner~
武道館
2017年6月7日(水)17:30-20:15/2F東スタンドV列8番