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「下町ロケット」
著者:池井戸潤
直木賞受賞作である。まず、タイトルに惹かれる。「下町」というローカルなものと最先端技術を結集させた「ロケット」という凸凹感がユニーク。それからもう一つ、本の装丁も目を引いた。武政諒氏のイラストは、独特の温もりと味わいがあって、手に取るだけでほんわかするが、さて、その中身は…。
主人公の佃航平は、宇宙科学開発機構の研究員だった。「だった」というのは、国家プロジェクトのロケット打ち上げに失敗した責任をとって、研究員の職を辞したからである。プロローグでリアルに描かれる打ち上げ失敗の部分からぐいぐいと引き込まれる。退職後は、家業の精密機械製造業を継いだものの、不況とグローバル化で競争が激化する中、小さな町工場が生き延びていくのは容易ではない。資金繰りや特許絡みの係争など次々生じる難問難題は、現実にありそうな話ばかりである。大手銀行や大企業を相手に毅然と立ち向かう展開は、同じく池井戸潤原作で昨年(2013)社会現象にもなったTVドラマ「半沢直樹」とよく似ている。食うか食われるか、肉食動物と草食動物の闘いさながらの緊迫した人間ドラマが抜群に面白い!
登場人物がわりと多い。立場もキャリアも違う様々な人物の言葉を借りて、働くとはどういうことかが問われる。敵対する企業ばかりか、社内の若手職員からも批判される中で、佃航平が次のように語る場面が印象深かった。
「俺はな、仕事っていうのは、二階建ての家みたいなもんだと思う。一階部分は、飯を食うためだ。必要な金を稼ぎ、生活していくために働く。だけど、それだけじゃあ窮屈だ。だから、仕事には夢がなきゃならないと思う。それが二階部分だ。」
「下町ロケット」は、夢を諦めなかった者達の勝利を痛快に描ききる。その道のりは極めて厳しく、紆余曲折もあり、人間の傲慢さや身勝手さを嫌というほど見せつけられる。現実の僕らも、保身を優先し、徐々に世の中に馴らされていく。妥協し、手を抜くことを覚えていく。その方が波風も立たず、とりあえずうまくいくように見える。それでも夢を持ち続けることは、相当の忍耐と覚悟がいるが、その価値は大きい。多くの人の心に響くベストセラー納得の秀作である。
(小学館文庫)
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