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「精霊の守り人」
著者:上橋菜穂子
今年(2014年3月)、児童文学のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞を受賞。1956年の設立後、受賞した日本人は、94年のまどみちお氏以来、わずか2人目という快挙である。その主たる業績が約10年に渡る「守り人・旅人」シリーズで、その第1作が「精霊の守り人」である。
「これ、児童文学なんだろうか?」というのが第一印象。実は、文庫化の際に漢字を増やし、大人向けの表記にしているそうだが、それにしても難しいテーマが描かれている。著者は、「子どもが読んでも、大人が読んでも面白い物語が書きたい」と、敢えて対象を限定せずに書いているそうだ。
舞台となる新ヨゴ皇国と先住民族ヤク−の対立やこの世(サグ)とあの世(ナユグ)の二重世界を絡めながら描かれる冒険ファンタジーは、読み物としてとても面白い。主人公らと共に旅をしていると、日々の喧騒がどこかへ吹き飛んでしまう。しかし、本作の本質的魅力は、その世界観にある。作家・恩田陸氏の解説にもあるように、文化人類学の研究者である著者ならではのアプローチによって、「歴史や言い伝えの意味する真実、行事に残された手掛かりなどから、世界の本質が見えてくる」のである。「生きていくということは、この世界についての自分の地図を作ることだ」と恩田氏が述べているが、著者が描く世界観に触れると、自分の地図に新たな道が加えられるような喜びが感じられる。
この本は、7月に放送されたNHK特報首都圏「大人を魅了する児童文学〜作家・上橋菜穂子の世界」をたまたま見て知ったのだが、上橋氏が怖いと言っていたことばが深く印象に残った。思考が固定化し、自らの正義を拠り所として固執してしまうのが怖い、という主旨だったと思う。時の為政者が揺るぎない方針を固め、反対意見を排除し、民衆の自由を抑圧するようになる。そんな独裁者が、歴史上、繰り返し現れてきた。世界各地で紛争の絶えない今だからこそ、多様な価値観を認め合う度量や先見性が強く求められるように思える。
「だれしもが、自分らしい、もがき方で生きぬいていく。まったく後悔のない生き方など、きっと、ありはしないのだ。」と、この物語は閉じられる。子供も大人も読むに値する作品である。
(新潮文庫)
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