くるりワンマンツアーライブ2012
〜国民の性欲が第一〜
中野サンプラザ 2012/11/27 19:10-21:20
1階21列14番

 単純な話、好きなのだろう。感情は理屈の前にあって、好きの理由もよくよく考えないと言葉にできないが、彼らのライブに行って、1曲として退屈したことがないという事実が実はすごいことなんだと思う。
 デビューするかしないかの頃、音楽通の友人(後藤)が勧めてくれたのが、くるりを知るきっかけだった。試聴した岸田のボーカルが民生に少し似ていた、というのが第一印象かつ好印象だった。後藤にNHKで行われた公開スタジオ・ライブに誘ってもらい、その場でファンになった。京都から上京してきたことを歌った1stシングル「東京」を聴くたびに本当の涙が出た。岸田の声には感情がノリやすいと勝手に思っている。それは、くるりのトリビュートアルバム「くるり鶏びゅ〜と」(09)を聴いたときに思い知ったことだが、どの歌も岸田のようにはうまく伝えきれてなかった。どのミュージシャンも十分な歌唱力があって、自分の色に合わせて選曲しているはずなのに、岸田の声のようにはくるりの世界観が伝えきれないのがハッキリとわか

ってしまったのである。それは、作った本人が歌うのが一番いいに決まっているだろう、と言う人もいたが、しかし、カバーされたことでヒットした歌も少なくはないし、そもそもライターとシンガーが別の場合だって普通にあるのだから、これは歌への思い入れとか上手い下手とは別次元の話だと思うのである。そこのところは相当微妙なものがありそうだし、受け手側の好みが大きく影響しているのも間違いない。考えてみれば、車のような無機質なものでさえ、似合うボディカラーというのがある。マイナー・チェンジしただけで、同じ車種にも関わらず、似合う色がベージュから白に変わってしまったという例を最近も見て驚いた。実に不思議だが、人間にはそうした微妙なニュアンスを感じる能力がある。そして、その微妙さは、理屈より先に感情へダイレクトに伝わってくるものなのだろう。故に好きか否かは、物事を判別する際の重要な指標になり得ると思うのである。

 ライブは、9月に発売されたばかりの10thアルバム「坩堝の電圧(ぼるつ)」と同じ曲順で始まった。「white out」、「chili pepper japones」、「everybody feels the same」。いつもながらに気負いなく、淡々としたMCの岸田であるが、その演奏や歌は、半端なく激しく熱い!今作からメンバーが2名増えている。吉田省念(gui・cello・vo)とファンファン(trumpet・key・vo)。それとサポートメンバーとして、あらきゆうこ(dr)が加わる。岸田はあらきに惚れているのかな、と思しきことがブログから読み取れるのだが、彼女の方はその気なしのよう…(笑)。「このバンドの屋台骨です」と岸田が紹介していたが、ものすごくエネルギッシュなドラムを叩く人である。くるりは結成時から2度ドラマーが変わっていて、今は、メンバーにいない。音楽的なことはよくわからないが、ドラマーがとりわけ重要なバンドなのだろうか。個人的には、2代目のクリストファーが好きだったが、あらきさんのドラムもいいと思う。彼女は11thシングル「How To Go」でも叩いていたようだから、くるりとのつき合いも長い。新メンバーの二人は、トランペットとチェロという新しい音をくるりに加えたが、まるで違和感がなく、今までやってきたくるりの音楽にすっかり溶け込んでいた。元々くるりには女性的な感性が感じられていたので、女性が加わったのも自然な流れという気もする。岸田自らが最高傑作と語っている「坩堝の電圧」であるが、それは嘘でもハッタリでもないことをまざまざと見せつけてくれるライブだった!

 岸田はMCで政治のことも語った。そもそもツアータイトルだって、小沢一郎の「国民の生活が第一」をもじったものだ(笑)。最近のブログにも、「被災地の復興問題や原発問題、増税や国際社会での立ち位置を確立し、国防や徴兵制のことなんかも考えなければいけないみたいです。どうしよう、俺兵隊にとられたら。」みたいなことが書かれている。福島第一原発の事故で被災した相馬を歌った美しい楽曲「soma」にあるように、彼のスタンスは常に庶民的、良識的な印象を受ける。電車オタクという嗜好性も彼の人柄を象徴しているように思えるが、愛すべき人物という気がする。少なくとも、僕はそういう人が好きなようだ。

 本編最後もアルバムと同じ「glory days」だった。今歌いたいことはすべてこの歌の中にあると語っていた。歌詞の中には「everybody feel the same」「ばらの花」「ロックンロール」「東京」からのフレーズも登場し、10作目を総括しているかのようである。アンコールは「ハイウェイ」、「ロックンロール」、「ワンダーフォーゲル」、そして「東京」だった。何度も背筋がゾクゾクした。くるりでしか聴けない楽曲ばかりである。「東京」では、涙が少しにじんだ。彼らが必ずこのデビュー曲を最後に歌うように、自分もまた、時々初心に立ち戻らないとなと思う。本人が知らないうちに、初心も気持ちも移り変わってしまうものだから。勿論、変わったっていいけど、それを自覚しておきたいなと思っている。