「肉まん」
 
 
 
 残業で遅くなった。どこかのラーメン屋に寄るつもりが、金曜の夜だからかどこも一杯で、なんとなく待つのも嫌で、そのまま帰ってきてしまった。家の近くまで来たのでそのまま帰ろうかと思ったが、ふとコンビニの灯りに吸い込まれ、店に入った。すぐ食べられるものを選んで買った。
 
 今、肉まんを食べている。食べながら、電車で読んだ新聞記事を思い出していた。今年、あちこちの成人式が荒れたという記事。市長の挨拶中に爆竹を鳴らした成人、知事に向かって帰れと怒鳴った成人、新聞記者を一方的に殴った成人…。イライラしてるんだな。我慢できないんだな。自分から逃げているんだな。弱いんだな。他人に頼っているんだな。この成人たちばかりではない。日本中がそういう状態にあるような気がした。
 
 その電車の中の隣の席に、若いカップルが夢中で話をしている声だけが聞こえていた。早まりすぎだよ。なに勘ぐってんだよ。男の野太い声が、女の声を押さえ込もうとしている。もう信じられない。あなたばっかり遊んで。女の声に涙が混じった。泣いている女の声と、怒っている男の声。本当に強いのは女なんだな、となぜか思った。
 
 コンビニで肉まんとピザまんを買ったとき、肉まんには赤いテープが付いてますからと若い店員が私に言った。若い店員はちょうど二十歳くらいの青年だった。マニュアル通りに言っただけかも知れないが、一瞬、目が合ったとき、この青年の言葉には心があるように思えた。目が優しかった。腰を低くしてお客に心配る仕草は、痛々しいほど馬鹿丁寧にも見えた。しかし、それは、成人式で暴れる者や電車で女に声あらげる者よりもしなやかでずっと逞しく見えた。
 
 「頑張れよっ、青年!」
私も、頑張るから。