
横浜ベイホールは、文字通り、湾に面したライブハウス。元町・中華街駅から人気のない暗い道を20分近く歩かねばならない。収容人数は1,100人らしいが、真ん中に大きな柱が2本あって、場所によってはステージが見にくいだろう。この日何人入っていたのか知らないが、ラッシュアワー並みのギューギュー詰めだった。スタンディングのときは、できるだけ背の高い人の後ろは避けたいものだが、ベストポジションをキープするのはなかなか難しい。「ライブハウスにはヒールの高い靴でくる」と話す女性たちもいたが…。
そんな満員御礼状態の中、1曲目の「シンカヌチャー」から観客の興奮はピークに達した!ブームの解散から約1年。きっと、この日を待ちわびていたのだろう。その飢餓感が爆発し、ただならぬ熱気だった。個人的に驚いたのは、バンド編成だったこと。チケット購入時点では、「宮沢和史ソロ・ライブ」というくらいしかわからなかったので、まさか総勢10名にもなる大所帯とは思ってなかった。勿論、宮沢さんの楽曲は、弾き語りもいい。しっとりと歌詞とおしゃべりを堪能するのもいいのだが、楽曲のアレンジが凝っているので色々な楽器でワイワイ賑やかしいバンドサウンドも格別なのである。先月(12月)にはベスト・アルバム「MUSICK」をリリースし、いよいよソロ活動が本格的に始まるツアーなのだろう、と漠然と思いながら、ノリノリの宮沢さんをみていて嬉しさがこみ上げてきた。
セットリストにあるとおり、ブームの曲は「世界でいちばん美しい島」のみで、宮沢ソロ・ワークス中心、とりわけGANGA ZUMBAの楽曲が多かった。なにしろバンドメンバーがGANGAなのだから当然だ!(笑)。僕はあまりGANGAは聴いてなかったので、そういう意味では新鮮だった。「MUSICK」もこの時点では未購入だったので、新曲3曲は初めて聴いた。そんなわけで、会場の熱狂的なノリにすっかり気後れしていたが、改めて宮沢音楽の多彩さに驚かされていた。
宮沢さんのMCで新作「MUSICK」の話題があった。「400以上の歌の中からあれもこれも入れたいと迷いながら、選んでみた。ずいぶん色々なタイプの音楽をやってきたなと思う。1つの音楽をやり続けることもとてもすばらしいことだけど、こうしていろいろな音楽と出会い、すばらしいメンバーとも出会ってやってこれて本当に幸せでした。」というような話だったと思う。で、この日2度目のメンバー紹介では、一人一人にかなりの時間を割いて、自身との関わりやその音楽性、人柄のすばらしさについて心のこもったコメントをしていた。パーカッションのマルコス・スザーノさんは、この日のライブのためにわざわざブラジルから来たのだという。パンデイロというタンバリンに似た打楽器の第一人者で、世界的に活躍している方らしい。クラウディア大城さんについては、アルゼンチンから単身来日していることに触れ、もし自分だったら、とても異国の地に一人で行って音楽をする勇気はないと讃えていた。高野寛さんについては、自分にないものを彼が持ち、彼にない部分をもしかしたら自分が持っていて、お互いを補いながらずっと一緒に音楽を創ってきたといい、パーカッションの今福”HOOK”健司さんについては、世界一のパーカッショニストであり、昔からの憧れで今でも最高に格好良くて、一緒にやってこられて夢のようだったと述べた。というような具合に、全メンバーについてお礼かたがたずいぶんと丁寧な紹介をしていた。
最初のソロ・アルバム「Sixteen Moon」は、ポリスやフィル・コリンズなどを手がけた世界的名プロデューサーのヒュー・パジャムによるものである。その中の収録曲「抜殻」をロンドンのスタジオで披露したとき、英国のミュージシャンたちがいい曲だと気に入ってくれた思い出を話していた。「どんな歌だ?」と訊かれ、詞の世界を説明したら、なかなかいいねと認めてもらえたんだという。その詞の一節は、こんな風に繰り返される。「♪人生をもう一度 やり直したとしても 同じ道に迷って 君を探すだろう 人生をもう一度 やり直したとしても 同じ道を歩いて 君に出会うだろう」。つくづく詩人である。
3時間近くになるライブの締めくくりは、「遠い町で」。メンバー紹介のあとのMCで、音楽をやってきた幸せを語り、「じゃあ、なんで辞めるんだと言われるかもしれませんが、何か新しいことに取り組んでみたいという思いがあって…」というようなことを言っていた。ブームを解散したこと、4月から沖縄県立大学・音楽学部の講師を務めることなどを指しているのかなと思って聞いていた。でも、そのあとに、「いつかまた心の底から歌いたいと思うときまで、マイクを置きます。」と静かに語ったのが、奇妙に思えた。2度目のアンコール、「遠い町で」が終わった。終演である。
自宅に戻り、会場でもらったビラの中に「表舞台での歌唱活動休業を発表」の言葉をみて、愕然とした。その瞬間、ライブでの不思議な違和感の謎がすべて解けた気がした。妙に丁寧なメンバー紹介、3時間にも及ぶライブ、観客のハイテンション、そしてマイクを置くという話は、これが最後のライブであるならば納得である。そんな、そんな…、である。ソロ活動が始まったばかりで、寝耳に水である。全くそんなつもりじゃなかった。この夜が最後だなんて、知らなかったのに…。
「♪離れていても 君の心 いつも見ている 遠くにいても 君の涙 僕は見える 抱きしめて あげたいと 思うたびに 季節が離れてゆく」にはじまる「遠い町で」の美しいメロディーが、頭の中でリフレインしていた。
宮沢さんのオフィシャル・ウェブには、こう書いてあった。「何度も何度も考え抜き、心の声に耳を傾け、自問自答してきましたが、今現在、心身ともに歌う力を持ち続けることができません。(中略)。『コンサートツアー2016 MUSICK』では宮沢和史のここまでの音楽人生を全身全霊を捧げて歌い上げる覚悟です。ぜひ、その姿を見届けてやってください。2016年1月3日 宮沢和史」。あぁ、そうなんだ、宮沢さん…(涙)。「Musick」とは、「音楽病」とでもいうのだろうか。「Musick」のMはMiyazawa、KはKazufumiのようにも見えてくる。たくさんの名曲をありがとうございます。宮沢さんが歌の中に宿した想いを、これからもずっときっと聴き続けます。どうか、お元気で!
Set List
01.シンカヌチャー(宮沢和史+DIAMANTES)
02.矮小な惑星(宮沢和史)
03.BRASILEIRO EM TOQUIO(宮沢和史)
04.あの海へ帰りたい(宮沢和史)
05.SPIRITEK(宮沢和史)
06.世界でいちばん美しい島(THE BOOM)
07.さがり花(宮沢和史/石川さゆり)
08.Perfect Love(宮沢和史)
09.Primeira Saudade(新曲)
10.ハリクヤマク(GANGA ZUMBA)
11.ちむぐり唄者(宮沢和史)
12.The Drumming(新曲)
13.楽園(GANGA ZUMBA)
14.Bridge(GANGA ZUMBA)
15.SAMBA CAOS(GANGA ZUMBA)
16.Mambolero(GANGA ZUMBA)
17.WONDERFUL WORLD(GANGA ZUMBA)
18.形(新曲)
encore 1
19.抜殻(宮沢和史)
20.HABATAKE!(GANGA ZUMBA)
21.DISCOTIQUE(GANGA ZUMBA)
encore 2
22.遠い町で(宮沢和史)
♪宮沢和史 コンサートツアー2016[MUSICK]
横浜BAY HALL
2016年1月11日(月)18:10-21:00 / スタンディング