

大正12年(1923)開設の日比谷野外音楽堂は、ちょうど100年を過ぎ、老朽化や音漏れ改善のため建て替えが予定されている。野外ライブの開放感は格別である。とはいえ、あらかじめチケットを購入する時点では、当日のお天気模様は予測不能である。ものすごい雷雨になる可能性もないわけではないし、過去にはそんな最低な野外ライブもあった。最低だったからこそ忘れ得ぬ思い出になってもいるけど(苦笑)。たとえ雨でも行こうと思えるとしたら、それは、今の宮沢さんの音楽を、建て替え前の野音で体感したいという思いしかない。結局のところ、何かしらのリスクを引き受けない限り、最高の出会いや至福の時に巡り会うことはない。当選がわかってる宝くじが宝くじではないのと似ている気がする。
宮沢さんは、ブーム解散後に喉の病気を患い、一時は歌を辞めるとも言ってたが、少しずつ体調と相談しながら音楽生活を続けられていて、ファンの一人としてとても嬉しい。宮沢さんはライブのMCで、「どの歌を届けるか、できれば全部届けたい」というようなことをよく言っているが、何かを選ぶことは何かを選ばないことでもある。選んだ歌と選ばなかった歌、どちらにも気持ちを向けているところに宮沢さんらしさを感じる。今に始まったことではないが、世の中は得てして白か黒かに単純化して、正義か悪か決めつけようとするところがある。例えていえば、バイデンかトランプかもそうだろう。ウクライナかロシア、イスラエルかハマス。双方の違いをあぶりだし、いい部分と悪い部分を論じるのであればよいと思うが、深く調べたり考えたりすることもなく、断片情報や印象だけで人々が流されていく風潮に危機感を覚える。ネット社会になってさらにその傾向が強まったように感じるが、もはや誰にも制御できないモンスターのような気がしてしまう。少し前、俳優・松重豊さんのインタビュー記事が目にとまった(朝日新聞2024年6月8日)。「見た人全員が『泣けた!』としか言わないようなものを、そもそも表現としてやる必要があるのか。観客が、鑑賞後も『あれはどういうことだったんだろう?』と想像力を働かせ、考え続ける。がんじがらめの中でも、風刺やパロディもうまく使えば、そういう作品をつくれるはずです。」松重さんのメッセージが心に響いた。世の中、よくわからないことだらけで、簡単に白黒決められない。白っぽいグレーもあるだろうし、白の裏側が黒かったりもする。膨大な情報全てを正確に表現することも読み解くことも、もはや不可能だと思う。何もないのではなく余白として、想像に委ねるしかないと思う。大海の氷山のように表出していない部分があるという前提でお互いの思いや国や思想や文化を理解するしかないように思う。
今回のコンサート「君と探してる楽園」について、宮沢さんは「楽園は、どこか遠くにあるように思ってしまうけど、そうではなく、今、ここにあることに気付くもの。」というようなことを言っていた。その言葉は、なかなか興味深い。山梨で結成されたブームがホコ天の路上ライブで人気が出て、やがて沖縄音楽と出会い「島唄」が生まれ、その後はブラジル音楽と融合していく。故郷を離れて、違う文化に触れて、異国の音楽を取り入れてきた姿は、どこかに楽園を探しているようでもある。でも、どこかにあるものではなく、今、ここにあるものであったというのが、宮沢さんの今の心境なのだろう。もっと聴きたい歌があったが、それはそれとして、貴重な一期一会の夜だった。
Musician
高野寛(g)/鶴来正基(key)/伊藤直樹(ds)/tatsu(b)/今福健司(perc)/斉藤久美(cho)/大城クラウディア(cho)/土屋玲子(vn)/倉富義隆(sax)/ルイス・バジェ(tp)
Set List
1.24時間の旅
2.神様の宝石でできた島
3.そばにいたい
4.ひゃくまんつぶの涙
5.楽園
6.月さえも眠る夜
7.島唄
8.Save Yourself
9.E TUDO TAO MENOR
10.次世界
11.アストロノート
12.Perfect Love
13.Next to you
14.Toquio
15.この街のどこかに
16.風になりたい
17.TOKYO LOVE
18.真夏の奇蹟
19.HABATAKE!
20.WONDERFUL WORLD
21.DISCOTIQUE
ENCORE
22.星のラブレター
23.遠影
24.銀河
♪宮沢和史
~音楽生活35周年コンサート 「君と探してる楽園」~
日比谷野外音楽堂
2024年5月25日(土)17:35-20:10/Cブロック8列126番