ざっくりとした話である。30代の頃は子育てと仕事の両立で忙しかったが、今思えば、まだ余裕があった。たとえば、自分で作詞・作曲して演奏して録音するような悠長な時間があったのだ。子育てが一段落した40代は、たとえば、午前と午後に1本ずつ映画をみて、夜はライブという遊び方をよくしていた。今もそうしたいのだが、なかなか時間がとれない。先輩たちからも度々聞いてはいたが、50代の時間の流れは猛烈に早く、しかも年々早まるらしい。ついでに体力も落ちしてくる。カゴの中の鳥に例えるなら、カゴの扉は開いているのに飛んでいけない鳥のようである。さらに60代になれば、あの頃はまだ若かったんだと思ってしまうのだろうけど…(汗;)。
 この日は、前日から群馬の水上温泉へバイクツーリングへ行っていて、昼に帰宅してすぐに六本木のビルボードライブ東京へと駆けつけた。翌日は仕事だし、我ながら忙しないと思うが、今回の場合は、ツーリングの日程が雨でずれてずれて、結局、この日に重なってしまったのだった。セルジオ・メンデスはもう何度も観にきているが、今回は、初めてカミさんを誘った。僕たちは、音楽にしろ、映画にしろ好みが違うので、趣味に関しては別々ということが多い。ただ、近頃は少し変化があって、たとえば、彼女が若い頃から好きだった大瀧詠一や山下達郎や松本隆といった人たちが最近は案外しっくりくるようになった。井上陽水だって、元々は彼女がファンだったわけだが、ここのところ毎年のようにライブへ足を運んでいるのは僕の方である。セルジオ・メンデスに関しては、高校時代から僕がファンだったのだが、相方も嫌いではなさそうなので、連れ出してみたのだ。
 演奏する曲目は、いつもほぼ同じで、その分ハズレがない。60年代から半世紀も演奏し続けていてなお、色あせない音楽の素晴らしさ!基本的に陽気なリズムである。楽器の奏でる音もボーカルもコーラスの声も美しく、そして、スタイリッシュだ。無限とも思える様々な音楽の中で、自分が心底好きだと思えるエッセンスが彼らの音楽の中にあって、聴くたびに満たされる歓びは何物にも代えがたい。日頃のストレスを一気に吹き飛ばす力がある。何の苦労も苦痛も悩みもなく、大抵のことが思い通りにできたらどんなに満足できるだろうと時々思いながら、同時に、人間はそうはならないだろうとも思う。何でも都合よくできっこないという意味もあるが、うまくできちゃう満足では飽き足らなくなると思うのだ。人間が究極的に欲しいものは、「ないもの」に違いない。すでに手に入れているものでは満足できない。1億稼いだら10億欲しくなる。寿命が80になれば、次は100だとなる。奥さんがいる人は、愛人も欲しくなる。自国の領土が確保できたら、もっと広げたくなる。さらに遠くまで飛ばせるミサイル、200階建のビル、運転手のいらない車、接客できるロボット…、数え上げればキリがない。先日みた「エクス・マキナ」(15)という英国映画は、なかなか怖かった~。とあるIT企業が極秘に開発したAIを搭載した女性ロボットの知能をテストする話だが、そう遠くない将来に起こりそうなSFスリラーだった。人間のために開発されたものが必ずしも人間の幸福にはならないというミスマッチは、これからもなくならないだろう。「ないもの」を求め続け、変化し続けるのが、人間を含む生命、そして宇宙全体の宿命なのだろう。だからこそ、変わらないもの、たとえば自分の大好きな音楽に触れる時間を大切にしたいと思う。ちなみに、誘った連れもそれなりに満足したようであった。

Set List
1 Magalenha
2 Pretty World
3 Waters Of March
4 Ela E Carioca
5 Upa Neguinho
6 Aqua De Beber
7 Chove Chuva
8 O Que Sera
9 メドレー Promessa De Pescador~Berimbau~Percussion Solo
10 Surfboard
11 Never Gonna Let You Go
12 Fool On The Hill
13 Going Out Of My Head
14 Look Of Love
15 Ultima Batucada
encore.
16 Mas Que Nada
17 Pais Tropical

♪Sergio Mendes 2017
Billboard LIVE TOKYO
2017年11月26日(日)17:00-18:30/4C-1