



「炎のランナー」(81)をいつ、誰と観に行ったかという話になり、古い映画ノートを探してみた。「まず、このノートの名前を『シネマ・ノート』にしようと思う」という書き出しで始まる一番古いノートをみていたら、「ルパン三世 カリオストロの城」についての記録を発見した。ただし、このノートは高2のときに過去に遡って書き始めていて、「カリオストロの城」は、中1の頃に観たときの感動を思い出しながら書いたものだった。曰く、「劇場にいったわけだが、とてもみごたえがあった。アニメでしかできないおもしろさをみごとにいかしているし、ストーリーも好きだ。また、キャラクターもいい。」。いとも簡単な感想文だが、高評価だったのは確かである。
最近、シネマコンサートがかなり浸透してきた。僕が初めて観たのは、2016年、すみだトリフォニーホールでみたチャップリンの「街の灯」だったと思う。途中から生演奏であることは意識せず、ただただ映画に引き込まれていった。今作も、同じだった。違うのは、歌があるため、例えば「炎のたからもの」が流れてくると、そうか、ボーカルが違うんだという意識が働く。ルパン(山田康雄)も峰不二子(増山江威子)もすでに声優が代替わりしているが、その点、映画なので当時のままの声で楽しめる。
映画上映後、コンサートがあった。その中の大野氏の裏話が面白かった。今作は、かなりの精度で画と音楽が合わせられていて、それを生演奏するとなると、短い間でのテンポやリズムの変化、場合によっては楽器を持ち替えたりという離れ業をやってのけなければならないようだ。それにもまして大変だったのは、当時のスコアが残ってなかったため、映画を繰り返しみながら一から譜面作りしたことだと言っていた。台詞が重なるシーンでは音楽が小さくなっていて、耳コピも相当な苦労があったようである。今回、書いた譜面の重さが10kgにもなったと言っていた。ボーカルには、松崎しげるや三代目峰不二子の沢城みゆきさんらが出演し、大きなオーケストラをバッグに名曲の数々が披露された。
「カリオストロの城」を観るのは、4回か5回目くらいだろうか。何度観ても面白いが、今回も期待以上に楽しめ、改めて宮﨑駿監督の並外れた才能と惜しみない努力の結晶に感動を覚えた。公開当時38歳の宮﨑監督は、「はじめて体力の限界を知った」と語っているが、相当なハードワークだったのだろう。映画をみながら、すべてのシーンに相当な情熱が注がれているのを感じて、ただただ感嘆してしまった。例えば、まだ駆け出しの泥棒だったルパンがゴート札の謎を追ってカリオストロ城に乗り込んだ際に深手を負い、植木の陰で倒れていたところに幼きクラリスが現れるシーンのなんともいえぬ美しさ。見知らぬ男に遭遇して驚き、逃げ出したクラリス少女が、ほんの少しして戻ってきて、水の入ったコップをルパンに差し出す。この短いシーンの中でどれだけ多くのことが語られていることか!ルパンがなぜクラリスを知っているのか、その理由を単に説明するだけのシーンにはせず、ルパンやクラリスのキャラクター、二人の目に見えぬ絆が伝わってくる。それゆえに現代パートが感動的なものになる。わずか1分にも満たないシーンが緻密に考え尽くされ、優れた技術の裏打ちもあって非常に完成度の高いものに仕上がっている、そう思うとより深い感動がある。
「宮崎アニメの暗号」という大変面白い本がある。その序章に、次のような宮﨑監督の言葉が紹介されている。「通俗作品は、軽薄であっても真情あふれていなければならないと思う。入り口は低く広くて、誰でも招き入れるが、出口は高く浄化されていなければならない。貧乏ゆすりの肩代わりや、低劣をそのまま認めたり、力説したり、増幅するものであってはならない。」これは、まさに「ルパン三世 カリオストロの城」にも当てはまる。誰でも楽しめる軽いノリのルパン三世の舞台を使って、大金を巡るドタバタ劇、ドンパチ合戦が畳みかけるように描かれる。しかしながら、先ほどの水コップのシーンしかり、塔の上で囚われているクラリスを励まそうとルパンがマジックを見せるシーン、そして、誰もが知る「盗んだのは心」と銭形に言わせる感動のエンディングなどによって、見終えた観客の心は間違いなく浄化されているのだ。
「宮崎アニメの暗号」は、物語に秘められた様々な「仕掛け」を解き明かしている本だが、なぜ、仕掛けられているのだろうか?「そもそも観客にすぐ気づかれるような『仕掛け』が、真なる情感を引き起こすはずもないでしょう。」と著者は書いている。確かに、そういうものかもしれない。例えば、こうして文章を書くときでも、一から十まで説明書のように書くのではなく、本当に伝えたいことは敢えて行間に潜めておくようなことがある。何でもスバスバ言える人が羨ましいときもあるにはあるが、どちらかといえば、ユーモアや思いやりのオブラートで包んが話し方をする人に、僕は惹かれる。それは、主義主張がないこととは違う。しかしながら、想像力や思いやりが足りないと、声が大きくなければ意見がないのと同じと見なされてしまうことがある。それは、かなり単細胞な社会だ。だからこそ、時々、浄化が必要になる(笑)。
♪映画公開40周年&大野雄二音楽活動55周年記念
シネマコンサート!andベストヒット「ルパン三世」ライブ!
パシフィコ横浜
2019年10月26日(土)14:00-17:30/2階C17列63番