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電灯と蜘蛛と蜘蛛の巣
玄関の電灯のまわりに、蜘蛛の巣がある。
古くなると、すぐにまた新しく張り替えられる。
まるでパチンコ屋のように、閉店と開店を繰り返している。
そんな蜘蛛は、別に電灯が好きなわけではない。
そうではない。
蜘蛛が好む虫たちが、たまたま電灯に集まってくるから。
それなのに、蜘蛛の巣が電灯のそばにあると、蜘蛛が電灯を好むようにみえる。
そういうことが、よくある。
蜘蛛の巣は、日常の至る所にある。
そこにあるとは知らず、あの弾力に富んだベトベトの糸に触れて、
たちまち躰がこわばってしまう。
手も足も顔も糸に覆われて、ぐるぐる丸められてしまう。
そうなるともう、泣いているのか、笑っているのか、
怒っているのか、許しているのか、
生きたいのか、死にたいのか、
生きているのか、死んでいるのか、
なにもわからなくなってしまう。
そうなって初めて、蜘蛛の巣があったことを知る。
真実を知るのは、いつも後からだ。
最初から物事の結末がわかっていることなんてない。
すべて、あとからわかることだ。
それにしても、蜘蛛が来ない。
そろそろ動けなくなった僕を食べに来てもよさそうだが。
ごちごちに固まった躰に大アゴで噛みついてくる頃だが。
うっすらと目を開けてみる。
すると、霞みがかった世の中に少し光が射していた。
蜘蛛はどこにもいない。
胸騒ぎがして、慌てて自分の躰をみる。
蜘蛛の糸で覆われた自分の哀れな姿。
しかし、よく見ると、糸の下に微かに見えるのは、
蜘蛛そのものの自分の姿ではないか。
そういうことも、よくある。
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