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心。
著者:稲盛和夫
今年8月、稲盛さんが92歳で亡くなられた。心よりご冥福をお祈りしたい。わが故郷でもある京都で京セラを起業したということもあり、若い頃から勝手に親近感をもっていた。陶磁器として古くからあるセラミックが最先端の素材に生まれ変わるということにも面白さを感じていた。稲盛氏の著作は何冊か読んでいるが、今作は、その集大成ともいわれている。読めばとても平易な、当たり前のことが書かれていた。「純粋で美しい心をもって生きる人に豊かですばらしい人生が拓ける。」「自らの内側に目を向けて正しい心をもっているか問う。」平易だからこそ、その真髄を理解することは逆に難しいようにも思える。
本の表紙にある大きな文字「心。」に小さく寄り添うように書かれている「人生を意のままにする力」に気付いてハッとした。世の中には様々な欲望、願望があるけれど、これこそが究極の幸せではないかと思える。「意のまま」というと、自分勝手、好き勝手することと誤解される可能性もあるが、稲盛氏が伝えようとしているのは勿論そうではない。「人生の目的をあげるとすれば、人のため、世の中のために尽くすこと。すなわち『利他の心』で生きること」と明確に書かれている。似たようなことが渋沢栄一の「論語と算盤」にも書かれていたが、世の中の荒波を乗り越え、世界を股に掛けて奮闘し、社会的成功を収めた人が到達して見えたものが「利他の心」であったというのは、感動的なことでもある。
稲盛氏が「秘中の秘」ともいえる策として紹介しているのが、「災難が起こったということは業が消えたということ」と考え、感謝すること。特に強調されているわけでもなく、さらっと書かれているが、ここは絶対に読み飛ばしてはいけない部分だと直感した。そして、具体的な手法として、「なんまん、なんまん、ありがとう」と唱えることについてのエピソードも書かれている。まだ幼児期の頃、お坊さんから教わって以来80年、生涯にわたってことある毎に口にしてきたそうである。この本を読んだ後、職場でちょっと嫌なことがあって、試しに「なんまん…」と心の中で唱えてみた。その瞬間、す〜と安らかな気持ちになり、我ながら驚いてしまった。「稲盛さん、ありがとう!」、自然と感謝の心が湧いていた。
静かに心を鎮め、純粋で至福の境地に到達したとき、それが「真我」であり、「宇宙の心」とまったく同じものであると書かれている。いきなり宇宙か〜と思わなくもないが、少し前に読んだ物理学者・村上斉著「宇宙はなぜ美しいのか」に、宇宙の始まりにあったのは水素とヘリウムだけで、すべての物質はこれらに由来するということが書かれていた。物質的にみても、宇宙に存在するあらゆるものが同じ元素からできており、共通の法則で成り立っていると考えれば、真我が宇宙とつながることも突飛なことではないと思える。
「何を判断基準にしているのか?」を考えることがある。例えば、ウクライナ侵攻に踏み切ったプーチンは、何が判断基準だったのか?という具合である。ものごとを判断するとき、自分にとっての損得ではなく、「相手が得するように」という思いを基準に判断したことは、すべて成功したと稲盛氏は書いている。本能は損得であり、感性は好き嫌いになる。知性には物事を決める力がなく、本能や感性で判断してしまっており、真我に基づいた判断だけが成功を導くということである。ということで、人生を意のままにするには、まだまだ努力が要りそうである(笑)。
(サンマーク出版)
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