はじめて会ったときなぜか、子供の頃住んでいた福岡の風景が浮かんだ。その昔、どこかで一緒に遊んだことがあるような懐かしさと親しみがあふれてくる。「触れ合う」ということを久しぶりに感じて、僕はそっと沙恵の肩に手を回した。沙恵もまた、僕の肩に首をもたげて、猫の目のような瞼をそっと閉じた。広々とした野原を生暖かい風が吹いているような、穏やかな気持ち。こんな出逢いがくることを、ずっとずうっと待ちわびていたような気がした。
話を聞いてみると、沙恵もまた、父親の仕事の関係で、家を転々としていることがわかった。中学生の頃、剣道をやっていたことや、無類の子供好きというところも自分とよく似ていた。そんな僕と沙恵の間柄は、結局のところ、恋人でもなく夫婦でもなく、限りなく幼なじみに近いものだった。年は14も離れているのに、なぜか心の中に共通した生い立ちが感じられた。
「また、来るよ」
僕の言葉に、彼女もまた「ワクワクしながら待っています」と可愛らしいことを言った。 あれから何年になるだろう?1度きりのひとときが、晩年になって突然に思い出されたのだ。きっと沙恵のことだから、いい人を見つけて、たくさんの子供たちに囲まれて、幸せに暮らしているだろう。そして、たぶん、今でも僕のことを思いだしてくれているだろうと思った。
「いつか死ねる」
近頃は、そんなことを考えるようになった自分がふと思い出した、遙か彼方の記憶である。