


賈鵬芳(ジャー・パンファン)擦弦トリオ
「夏の夜の夢」
HAKUJU HALL
2013年7月5日(金)19:05-21:00
なんて不思議な音色だろうと思う。二胡である。中国で古くから伝わる擦弦楽器で、ニシキヘビの皮で琴筒が包まれているところは、三線のようである。日本ではよく胡弓と混同されることがあるが、見た目も音も少々違う。日本では「弓で弦を弾くもの」を広く総称して「胡弓」と呼ぶ場合があり、その中に二胡も含まれているところから、二胡=胡弓といった言い方がされることがあるようである。ジャー・パンファンさんは、中国黒竜工省生まれ。8歳で二胡を始め、プロの演奏家になり「中国中央民族楽団」のソリストとして活躍したのち、1988年に来日。服部克久氏に見出され、日本で活動するようになる。僕も90年頃から聴いていて、その独特の音色と美しい音楽性に魅せられていた。なかなかコンサートに行く機会がなく、このたびの来日25周年記念ライブで初めて生で聴くことができた。
メンバーは、ジャーさんを含め5名。恩田直幸氏(ピアノ)、堀沢真己氏(チェロ)、吉野弘志氏(ウッドベース)、梯郁夫氏(パーカッション)である。会場のHAKUJU
HALL(代々木公園前駅から徒歩10分)というのも不思議な名前だが、株虫生命科学研究所という会社が心の健康に貢献することを目的に設立したものだそうである。温もりの感じられる色合いの音響にも優れた小さなホールだった
ライブは二部構成で、それぞれ7曲。アンコールが2曲ほどだった。クラシックの「カノン」があったり、いかにも中国らしい「河南小曲」があったり、「アメージング・グレース」があったりと幅広い選曲で楽しめた。ジャーさんは音楽からイメージしていたとおりのとても柔らかい感じの人だった。中国人というと直情的で、言いたいことをずけずけ言う印象もなくはないが、ジャーさんの語りはその音楽と同じように、とても優しく、ユーモアもあって、心地よいものだった。お話好きなのかサービス精神なのか、たぶん、その両方なんだと思うが、曲間ではたっぷりとMCの時間があって楽しかった。二胡の音色はどこまでも透明で、水墨画でみる中国の深い山々のようだった。
中国と日本は、尖閣諸島問題を契機に、今また摩擦を生じている。他国と同じように軍隊をもち、日本人としての誇りを取り戻そうという気運が高まっている昨今だが、周辺国はやや緊張している様子。憲法9条という世界に類を見ない武力放棄の宣言には、自衛隊という矛盾を抱えている。時代が変わったのだから実態に合わせようという真っ直ぐで生真面目な考えも理解できないではないが、矛盾を抱きかかえつつ被爆国として反戦の姿勢を貫く道もあるのではないか、その方が誇れることではないのか、と個人的には思う。左・右とか貧・富とか二極化しそうになる間のグレーゾーンに丁度よい加減があるように思えてならない。ライブ後にサイン会があった。順番を待つ間、何を言おうか考えていた。「日中の架け橋になってください」と言ったら、ジャーさんが僕を見て、ニコッと微笑んでくれた。またとない、素敵な夏の夜になった。