大抵、音楽ライブの開演は、予定より10分、15分遅れるのが、なぜか普通。ステージを遠目に眺め、固唾を呑み、隣近所の様子を伺いながら、「待たされるのを楽しむ時間」なのである。が、ホール&オーツは定刻ピッタリに始まった!D.ホールの律儀さゆえだろうか。なんていうのはこちらの勝手な想像。D.ホールがどういう人なのか全く知らないのだが、なんとなく親しみやすくて、約束はきちんと守る律儀な人だという気がする(あくまで想像…)。
 そんな彼らの1曲目は、印象的なベースで始まる「MANEATER」。シュープリームスやフィル・コリンズのカバーでもヒットした「恋はあせらず」似のベースラインから大胆な曲調に変貌するこの曲は、米国はもちろん日本でも大ヒットした。この曲から始めて、「ホール&オーツの世界へいらっしゃい」という感じだろうか。次いで同じアルバム「H2O」(82)から「FAMILY MAN」。この曲は、マイク・オールドフィールドのカバーだが、何とも不思議な雰囲気をもっていて、まるで蝉が鳴いてるようにも聴こえる妙なギター音(?)が楽しくて好きな曲である。後日談だが、このライブ後に街を歩いていて「ファミリーマート」を見かけると、知らず知らずのうちに頭の中でこの曲が流れるようになってしまった…。
 さて、ヒット曲はつづく。初期の作品からは「RICH GIRL」、「SHE’S GONE」、そして何より「SARA SMILE」がよかった。D.ホールの彼女であり、仕事上のパートナーでもあったサラ・アレンに送ったラブ・ソング。円熟した演奏とD.ホールの歌声に内なるアメリカを感じながら、ほろ苦い、甘酸っぱい、いくつもの感情に浸った。何十年経っても色褪せない究極のラブ・ソングである。そして、アルバム「プライベート・アイズ」(81)からは、「I CAN'T GO FOR THAT」や「DID IT IN A MINUTE」などがあった。どちらもとても好きな曲だが、今回のライブでの1つの発見は、「I CAN'T GO FOR THAT」のBメロの美しさだった。ゴミゴミとしがらみに満ちた都会(イントロ〜Aメロ)を抜けたところにパッと視界が広がるような爽快さは、まるで「自由」そのものだ。「何でも叶えてやろうじゃないか。でも、そればっかりは勘弁してくれ。」その気持ち、今ならよくわかるよと思った。
 ホール&オーツは、親日家らしい。1980年の初来日時は、東京、大阪で4回の公演を行っているが、その後も1〜3年ごとに来日している。初来日から30年の節目として、1回目のアンコールの時に、ウドー音楽事務所の社長をステージ上に招き、二人からサイン入りギターをプレゼントする一幕があった。日本式にお辞儀をしていて、やっぱり「律儀な人」だよ、本当に(笑)。J.オーツが最近のインタビューで次のようなことを語っていた。「80年代は異常だったよ。むしろ今の方がゆっくり音楽と向き合えるし、よりよい演奏をするためにギターの練習にも熱を入れているんだ。」本当にすばらしい人というのは、他人への感謝を忘れず、延々と努力し続ける人である。
 今回のライブでは、珍しくPAがステージ上(左側)に置かれていた。それとは無関係だろうが、始まってしばらくは何か音響トラブルがあったらしく、頻繁にD.ホールがスタッフに注文をつけていたし、心なしか音の迫力がないような気もした。それと、原曲とはやや違ったアレンジだったこと、そして「ONE ON ONE」をやらなかったのは、とても残念だった。
 2回目のアンコールで「KISS ON MY LIST」のイントロが始まった瞬間、女性の悲鳴も混じったような大歓声に包まれ、会場全体がもの凄い熱気に包まれた。サラ・アレンの妹、ハンナ・アレンと始めて一緒に作った曲。D.ホールが何年も前からよくやってたというピアノを連打するスタイルが曲の雰囲気にマッチして、とてもいいノリを生み出している。そして、言葉の並びが独特の躍動感を作っていて、実に気持ちいい。当然、ラブ・ソングなんだろうなと思っていたら、実は、アンチ・ライブソングなのだと最近になって知った。「君のキスは最高の素敵な物の1つとしてリストに載ってるけど、唯一無二ではない。」って歌なのだ。最後は「PRIVATE EYES」へと続いて、大いに盛り上がって終わった。え、もう終わりなの?1時間40分とやや短めだったが、それにしても楽しい時は早く過ぎてしまうものである。
 「プライベート・アイズ」(81)が大ヒットしたあとに作ったアルバム「H2O」(82)に関して、「僕らは成功や達成感というものに関して他の人たちとは違う基準をもっている。…外からのプレッシャーはあまり気にしない。自分たちが以前に作った物よりさらに前進することを自らに強いるんだ。僕らの音楽は僕らにしかできない。」とD.ホールがコメントしている。こういうコメントを嬉しそうに語る彼らに好感をもってしまうのは、僕だけじゃないだろう。彼らの生き方が投影されたツアータイトルのように、彼らはひと頃の大ヒットとは距離を置きつつ、自らが望む音楽活動を今も続けているようである(日本ファンサイト
)。
2011/2/26 武道館