今回はヴェルベットシアターツアーという特別編だった。真夜中にだけ現れる劇場をイメージしたライブ。選曲もタイトル曲を含めて、夜っぽい雰囲気のものが多い。スクリーンに投映される映像も不思議なものが多く、月や砂漠など異国情緒あふれるものだったりした。「みんな友達。最高のパーティーをやりましょう」というMCがあったが、松尾レミも亀本寛貴もファンとの隔たりのないスタンスがすばらしいと思った。どんなアーチストだってファンを大事にするのは当たり前なのだが、彼女たちにとっては、「ファンは友達」という意識のようだ。
 彼女らの「サンライズ・ジャーニー」を初めてカーラジオで聴いた頃から、彼女らの歌には覚悟を感じる。揺るぎない覚悟があるからこそ、自由であり、誰をも受け入れる度量があるように思える。彼女らの音楽は音だけでなく、様々なアートワークも重視している。物販紹介のとき、100円のステッカーでも要らないものは作りたくない、自分が欲しいものを作っていると言っていた。そして、11月15日にニューアルバムが出る話から、アルバムが好きだという話もしていた。リード曲だけでなく、1つ1つどれも同じくらい大事に作っていると。そのアルバムからの新曲や「アーヤと魔女」のコンピレーションアルバム曲もライブで初めてやったくれた。どちらも初めて聴いたが、とてもしっくりと馴染んだ。そんなとき、彼女の歌心は本当にすごいと思う。
 2度のアンコールのあと、亀本にふられたレミさんが、「終わっちゃた!って感じ。もう一度、最初からやりますか?」と会場に向って言っていたが、条件が許せば本当にやるくらいの勢いだった(笑)。彼女のパワフルさは半端ない!今、自分が最も必要と欲しているライブは、GLIM SPANKYのような気がした。僕が越えていかなければいけない壁は、彼女らがカギを握っているように思えた。
 このライブ覚書を書いている9月18日の前日、映画「ミステリと言う勿れ」を観た。要するに昨日である。田村由美による原作漫画は、2016年から連載が始まり、累計1800万部超えという。2022年に放送されたテレビドラマも高視聴率を記録し、様々な受賞歴がある。全く知らなかったが、映画版を観て、大ヒットの理由がわかるような気がした。主人公の久能整(菅田将暉)は、一見、普通の大学生である。もの凄いイケメンとか、強烈なリーダーシップを発揮して周囲を巻き込むとか、そういうヒーロー的な要素がまるでない。ただ、人並み外れた洞察力と記憶力、それとかなりのおしゃべりというキャラである。いろんな魅力が感じられる作品だが、特筆すべきは、彼が淡々と話す鋭いコメントだろう。父の死に責任を感じている女子について、「子供って、乾く前のセメントみたいなんですって。落としたものの形が、そのまま跡になって残るんですよ。」と言ってみたり、仕事を辞めた専業主婦について、「女性は家事と子育てが好きだし向いている、ってなぜか信じてる人がいるんですけど、じゃあ逆に”男性は力があるんだから肉体を使って永遠に重労働してね”って言われたら、”よしOK!”って言う人と、”いや身体が弱いんで無理です”とか、それぞれに声が上がると思うんですよ。」と言ったりする。俺が言うんだから正しいんだと声高にマウント取ろうとする感じは微塵もなく、客観的に分析、考察していたことを淡々と話す。菅田くんが巧いからこそ、台詞に命が吹き込まれているのだが、そこに原作者の強い想いが感じられる。そういえば、主人公の不思議な名前は、「苦悩を整える」という意味なのだろうか。自分の苦悩と同じように、他者の苦悩に寄り添うようにして発する言葉の数々が観る者の心に染みてくる。その感覚が、GLIM SPANKYの二人にも重なるような気がして、今、この文章を書いている。肌身離さず持ち歩いているスマホは、情報の洪水のように思える。心温まる話以上に不安を煽るような犯罪や危機や争いの話題に溢れ、フェイクニュースに煽動され、何を信じていいか常に疑ってかかったり、逆に盲目的に信じてしまったり。その二つは相反するようで似ているように思える。自分の中で十分に咀嚼して考えることをしないで、反射的に答を検索しながら思考は停止しているから、すべてを疑ったり、鵜呑みにしたりしてしまうのではないか。そんな情報過多な時代の真っ只中でも久能整やGLIM SPANKYは、地に足を着け、損得ではなく、勝ち負けでもなく、あくまで自分の信じる道を正しく歩もうとしているように思える。そこに強く共感したのだろう。そういう部分も含めて、今回のライブは期待どおり100%満足だった。

♪GLIM SPANKY
~Velvet Theater 2023~

The Garden Hall
2023年8月5日(土)18:10-20:40/スタンディング