街路樹の銀杏が黄色く染まる港町・横濱は、たくさんの人で賑わっていた。みなとみらい地区が埋め立て地であるように、この界隈のシンボルともいえる山下公園が関東大震災(1923/9/1)の瓦礫を埋め立ててできた復興公園であることはよく知られている。その公園の目の前にある神奈川県民ホールで、今年もグレン・ミラー・オーケストラのコンサートが開かれた。頻繁に来日しているようだが、僕が観たのはかれこれ10年以上前になる。時が経つのは早いとは、過ぎて思うもの。子供の頃は早く大人になりたいと思っていたはずが、そのうち早く早くとは思わなくなっている。一体、その境が何歳くらいなのか?人によるのかもしれないが、僕の場合は、25、6の頃だろうか。こんなどうでもいいことを考えている暇な人は、それほどいないだろうか…。

 グレン・ミラー(1904-1944)は、米国アイオワ州出身のドイツ系アメリカ人。トロンボーン奏者となり、トミー・ドーシーやベニー・グッドマンらとの活動を通じて腕をあげ、1937年に自身の楽団を結成する。楽団のテーマ曲でもある「ムーンライト・セレナーデ」や「茶色の小瓶」、「真珠の首飾り」などヒット曲を連発し、やがて「スウィングの王様」と称されるようになるが、戦時中の飛行機事故で急逝してしまう。楽団の活動期間は、わずか7年ほどである。1956年にグレン・ミラー財団が発足し、ニュー・グレン・ミラー楽団が結成され、現在のニック・ヒルシャーが9代目の指揮者である。グレン・ミラーが作った5サックス、4トランペット、4トロンボーン、3リズムのビッグ・バンドの編成が受け継がれており、現メンバーの年齢構成は22〜62歳と幅広い。

 グレン・ミラーの魅力は、何といっても曲のよさだろう。「ムーンライト・セレナーデ」のような自作もあるが、編曲したものの方が多いようだ。優雅なバラードもあれば、「ペンシルバニア6-5000」や「チャタヌガー・チュー。チュー」のようにノリのいいものもあって、バラエティに富んでいる。基本的に陽気で楽しい楽曲が多い。それと、見た目へのこだわりも強い。揃いのスーツでビシッと極めて、楽器を使ったパフォーマンスも格好いい。指揮者のニック・ヒルシャーはまだ36歳だが、98年からグレン・ミラー楽団の男性ヴォーカリストとして活躍していて、今回のコンサートでもその美声を披露していた。休憩をはさんで約2時間、名曲の数々が演奏されたが、1つだけ残念だったのは、「ダニー・ボーイ」がなかったこと。アイルランド民謡をアレンジしたゆったりとしたとても美しい曲で、グレン・ミラーの中でのマイ・ベストといっていい。またの機会かな…。
 人はパンのみに生くるに非ずという。この有名な聖書の言葉には続きがあって、「神の口から出る一つ一つの言葉による」、つまり神の教えに導かれてこそ人として生きられるという意味のようである。僕はキリスト教だけでなく特定の宗教を特別に信仰する者ではないが、しかし、「神の視点」はあっていいと近頃思う。国の境界線を編み出した人間が、境を越えた越えないで争う。突き詰めれば資源や財など「パン」に関わる争いなのである。「パン」のために失ってきたもの、これから失いそうなことに目を向けないと、21世紀は厳しいのではないだろうか。そういえば、グレン・ミラーも戦争の犠牲者なのである。