フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか

 

著者:堀内都喜子

 

 

 フィンランドといっても馴染みがないし、よく知らない国である。アキ・カウリスマキ監督の映画は結構観ているが、彼が描くフィンランドは、とても貧しく、一昔前の日本のような懐かしいもので、今のフィンランドとは違っている気がする。この本を電車内で読んでいたら、「ムーミンはフィンランド生まれ」と書いてあった。そういえばそうかと思いながら、乗り換えのため新宿駅構内を歩いていたら、特設のムーミングッズ売り場があって、あまりのタイミングのよさに感激して、スナフキンのマグカップとムーミンの扇子を衝動買いしてしまった(笑)。直前に読んでいなければ素通りしていただろうに、そんな風な不思議な縁を感じることが日常の中にも時々ある。
 著者は、フィンランドの大学で修士号を取得し、フィンランド系企業で働いたあと、フィンランド大使館に勤務している方である。フィンランドの国土面積は34万平方`で日本の9割ほどだが、人口は550万人と日本のわずか4%ほどしかいない。そんな小国にもかかわらず、2019年の一人当たりGDPは日本約4万ドル(24位)に対してフィンランド約5万ドル(16位)であり、国連が発表している幸福度ランキングでは、2018〜2019年の2年連続で1位となっている。当のフィンランド人は、「そのランキング、おかしいのでは?」という受け止めらしいし、幸福度なんて数値化して比べられるものではないとしても、興味深い結果ではある。
 この本を購入した理由は、時間外労働がやたらと多いからである。もう何年間も月100時間を続けている。僕の場合は、自ら選んでやっているので納得しているのだが、職場の働き方には改善の余地が多いと感じている。読んでみると、共感する部分が多く、自分の考え方が職場の慣習よりフィンランドに近くて驚いた。例えば、次のようなものだ。
@計画は大雑把に立てて、やりながら修正していく。
A上下関係がフラットで、部下に裁量権を与える。
Bピラミッド型ではなくチーム制で意思決定する。
C上司にいわれてやるではなく、お互いのためにやる。
D1か月の夏季休暇は生産性やウェルビーイングのために必要という認識が共有されている。
 著者がフィンランドへ来て一番感動したことの1つとして、年齢や性別に関係なく学び続けられる環境について書かれている。有名な話だが、フィンランドでは大学授業料が無料である。就労年齢人口の6割が転職していて、その際に専門性を身につけたり、学位を取得しているという。例えば、ヘルシンキ大学では、これからの社会を大きく変えようとしているAI技術に関するオンライン講座を開設していて、しかもフィンランド人だけでなく、世界中の人が受講可能な英語のオープン講座だという。裕福な家庭の子供だけが塾へ通い、教育環境の整った学校へ進学できることが格差の連鎖につながっていると社会問題化しているが、フィンランドの取り組みを知ると、自分たちのいる世界の常識が必ずしも致し方ないことでも、改善する方策がないわけでもないと思える。
 話は少し変わるが、数日前、J−WAVEに出演していた辻愛沙子さん(株式会社arca代表)を知り、大いに感動した。政治家の発言や職場でも思うのは、ベテランといわれる人の発言が、自己都合的だったり、内向きだったり、権威主義的だったり、頭でっかちだったりしていて、未来を切り拓こうという意思もアイデアもなく魅力が感じられないことである。オリンピックでの若い世代の活躍をみても励まされたが、きっと、若い人たちが新しい価値観でこれからの未来をよくしてくれるような気がする。老人たちはさっさと引退して、彼たちの応援者になり、少なくとも邪魔はしないようにした方がいいと個人的には思っている。「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」では楽しくない、と思う。
 

(ポプラ新書)