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「あなたがもし奴隷だったら…」
文:ジュリアン・レスター、絵:ロッド・ブラウン
ショッキングなタイトルである。奴隷の歴史は紀元前の古代ギリシャ時代にまで遡るようだが、我々現代人が念頭に浮かべるのは、アフリカ黒人奴隷だろう。15世紀、ポルトガル人によって始められた奴隷貿易は、その後19世紀まで続き、その間に約1,000万人のアフリカ原住民が大西洋を渡ったといわれる。「奴隷って何?」と中学生の子供が言った。そうか、奴隷は死語なのか…。それならそれでいいことだが、ひょっとすると、形を変えて今も存在してやしないだろうかと、思えなくもない。
この絵本では、アメリカにおける奴隷制度の実態が描かれている。冷たい鎖に繋がれた裸の人間たち、奴隷船内で身動きもできず、糞尿にまみれながらの3ヶ月の航海、両手首を吊り下げられ鞭打ちで血を流す人…。著者レスター氏は、想像して欲しいと訴える。奴隷となった人たちの怒り、憎しみ、そして鞭を打つ側の心理を、ただ見るのではなく魂の総力を結集して凝視して欲しいと。「他人の傷みや怒りが想像できたとき、心に『理解』が生まれる。心に理解が生まれたとき、ひとりでない自分を感じることができる」のだからと。
今年(2010)、チリ北部サンホセ鉱山の落盤事故で33名の作業員が地下700mに閉じこめられ、生存が絶望視されたが、69日間ぶりに無事全員が救出された。まさに奇跡!世界中に発信された映像に人々の関心が集まり、奇跡の救出劇を見守り、歓喜した。家族愛、人類愛に満ちたニュースだった。それにしても、と思う。33人の人命救助に世界中が歓喜する一方、1,000万人の奴隷を生み出すことも可としてしまう人間とは、何なのだろう?ただ単に、時代背景が違うせいだろうか?17〜18世紀、ヨーロッパでは喫茶の習慣が広まり、砂糖の需要が急速に高まっていた。イギリスでは産業革命を牽引する繊維業の原料として綿花の需要が高まり、これらヨーロッパ向けの砂糖や綿花の生産地となるブラジルやアメリカへ奴隷が運ばれていったのである。経費削減のための奴隷。営利追求が自己目的化し、手段を問わなくなる怖さがある点は、現代にも通ずるように思えてしまう。
差別や搾取は絶対にしてはならないと頭では理解している現代人である。家族愛や人類愛を感じる心をもった人間である。しかし、ビジネスのため、グローバル化した世界で勝ち残るため、自らの生活を守るため、より快適な暮らしのため…といった諸々の条件を突きつけられると、迷いつつも、或いは迷うことなく、差別や搾取につながる行為に及んでしまう動物なのであると、この絵本から想像してしまった。
(あすなろ書房)
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