一匹犬
 
 
 
 たったひとりきりでは生きてゆけぬ世の中であると承知はしているが、といって、なにかと群れたがる習性には馴染めない。当たらず触らずという距離感ももどかしい。できれば離れるか、思いきり入り込む方が余程楽だと思う。
 
 もうこの国では戦後が50年以上続いている。にもかかわらず、世の中には新手の犯罪が後を絶たない。守るべき子供の命をその親が餓死させた。投げやりになった大人が幼い命を無差別に剥奪した。そんなニュースが毎日のように聞かれる世の中は、ある意味で戦争より酷い。朝、「行ってきます!」と元気にでかけていった我が子が、夕方には「ただいま」も言えぬ亡骸となって家に届く。
 
 人の心と心がすれ違ったまま、遠く離れてしまった。
「携帯電話?」「メール?」「出逢い系サイト?」
つながっているのは、無機質の電波だけなのかもしれない。
心を分かち合う、いたわり合う、思いやることなく、欲求だけが膨らみ、欲求不満だけが高まってゆく。
孤立することを恐れるあまり、独立できない現代人。
 
 他人事ではない。無力であっても、無気力であってはならない。
だから、一匹狼ほど恰好よくなくても、せめて「一匹犬」くらいな気持ちでいたいと思う。