OKUDA STANDARD tamio custom 12.26
 
 
at Shibuya−Kokaido                          special thanks to ”Bell”

 
 
 T roomからリンクしている「奥田民生only」のチケット専用掲示板に「26日の渋公1枚希望」と書き込みしてから10日ほど過ぎていた。何ひとつ音沙汰なく諦めかけていたクリスマス・イブに、1通のメールが届いた。開けてみると、「渋公26日のチケットを1枚お譲りします」という嬉しい知らせだった。一瞬、目を疑いながら、もう一度よく読んでみたが、間違いなく「お譲りします」と書いてある。慌てて返信メールを送ると、すぐにまた返事が来た。「すみません」「大変大変申し訳ありません」。またまた目を疑ってしまった。今度は、悲しい知らせだった。私の返事が遅かったため、別の人に譲ってしまったところだという。「嗚呼、神様!」結局、運は良くもあり、悪くもあったのだ。仕方ないぞと、私はもう一度諦め直すことにしたのだが、その差出人の「ベル」という人は何と奇特な方だろうか。責任を感じて、ギリギリまでチケットを探してくれるという。しかし、ライブは明後日に迫っている。さすがに無理だろうと思ったが、しかし、ベルさんは本気で探してくれる様子なので、私も諦めないことにした。ダメ元だ。失うものは何もないのだから…。そうして1日が何もなく過ぎ、ライブを翌日に控えたクリスマス夜半。やはりダメかと、そろそろ寝ようと思っていた矢先、ベルさんから連絡があった。サンタがクリスマス終了間際に届けてくれたのは、「奥田民生 渋公26日のチケット1枚」であった。
 
 
 師も走る12月。21世紀最初の年は、さまざまな波乱、破綻を抱えたまま、残り5日と迫っていた。あまり寒くない今冬の訪れであったが、ここ数日は急に冷え込んでいたので、私は数日前に出したばかりのハーフ・コートを着て、陽が落ちた渋谷の街を歩いていた。今年流行のロング・マフラーを首に巻いた若いカップルで埋め尽くされた歩道を歩きながら、これから始まるライブへの期待で胸が高鳴った。待ち合わせの時計台に着くと、待ち構えていたようにダフ屋が次々声をかけてきた。「チケットあるの?」いや、ないのだ。内心そう思いながら、サンタの訪れを待った。約束の時間の少し前、携帯が鳴った。サンタは、すぐ隣りにいた。ベルさん、ありがとう。私は、チケットを手に、吸い込まれるように会場へ入っていった。心の中でそっと手を合わせながら。
 
 
 2F19列62番というと、渋公では最後列に近く、右隣は壁という位置だった。しかし、今ここにいられるだけで嬉しい私は、大満足であった。定刻が過ぎ、照明が落ちると、舞台のスクリーンに渋公の表玄関が映し出された。「生中継」の文字と同時に現れたのは黒塗りのリムジン。わっと高まる歓声の中、車中から現れたのは、奥田民生ほか5名のバンドマンらであった。誰もいなくなったロビーをメンバーが歩いてくる。その姿をカメラが追いかけながら、ついにステージが映し出された。1曲目は何か?会場全体が固唾を呑み込んで、その瞬間を待っていた。
 
 
 「夕陽ヶ丘のサンセット」いきなり新曲だった。たちまち2F席まで総立になった。つづいてはオリジナル・バージョンの「イージュー・ライダー」が惜しげもなく登場。一気に盛り上がる中、早くもMCが入る。「あのリムジン、乗っていたのは、公会堂の裏からの正味2分!」に会場、爆笑。その後、カバーが2曲続く。「カッコマン・ブギ」に「スモーキング・ブギ」。そして、「マシマロ」がなんと、「スモーキング・ブギ」のコード進行で演奏され、唄われた。続くMCで、「元ネタがあるんですねぇ」というコメントがあったが、本当に「マシマロ」が「スモーキング・ブギ」を下敷きに作られたのだとしたら驚きだ!その違いは、歴然だもの。名作の陰に逸話ありである。
 それから、しばしビデオ上映。川崎大師のCMに手を合わせる民生に会場が湧き、パフィー新曲のCMに続いて、本物のパフィーが現れて、さらに会場が盛り上がった。新曲「青い涙」を、パフィーの間に挟まって民生がコーラスを入れる図が微笑ましかった。
 パフィー退場後、ユニコーン時代の映像がモノクロで映し出される中、「健康」が演られた。さらに曲名は知らないが、発売前の新曲が続いた。これがまたまた意味不明の歌詞と恰好いい曲で、乞うご期待という感じのものであった。このあと「休憩っ!」発言。タバコを吹かしながら休む間、普通なら「民生〜!」コールが連発する場面だが、今日の渋公はオシトヤカ。「微妙な、ムードですね」ポツリと言った民生の言葉が可笑しかった。このときのMCで、「来年は、アルバム出ます。たぶん。」という発言もあった。
 続いて、「The STANDARD」。さり気なく、儚げでいい唄である。それから「ワインのバカ」。これも目立たない唄だけど、実はとても恰好よくて、ライブで聴くとなおさらよかった。次の「トランスワールド」以降、曲間がなくなり、ドライブがかかりっぱなしという状態になっていく。「哀愁の金曜日」、「彼が泣く」、「手紙」と熱唱が続いて熱く熱くなる。そして、「CUSTOM」。民生流バラードに、心がヒリヒリした。ベルさんにもこの唄を聴かしてあげたいなぁと思いながら、長さんのギターに哀愁を感じながら、早送りで映し出される高速道路、空、地球の映像を目に心に焼き付けていた。
 なぞのMC「オハヨウゴザイマス」に続いて、メンバー紹介。「呼ばれた人は、軽い流し目をする」という妙な企画で、心底、笑った。いよいよ終盤に入り、バーンとステージ脇で火花が散って、「さすらい」が始まった。民生の決意が感じられるこの詞もグッとくる。ノンストップで「近未来」、「MILLEN BOX」と続いて、ラストが「コーヒー」。何となくネギ坊のベースラインに集中して聴いていたら、物凄いグルーヴを感じてとても新鮮に聞こえた。
 アンコールは、名曲「雪が降る街」の弾き語りだった。年末ライブに相応しいこの選曲には、しびれた。しみじみとした日本的な情緒を感じさせるこの唄の魅力にすっかり酔ってしまった。ユニコーン時代より格段に歌唱力が増しているせいもあり、本当に心に染み渡るような味わいだった。
その後、パフィーやメンバーが再登場し、渋谷の生まれの「BEEF」で上がりとなった。
 民生の音楽。形の中にある形ないもの。そんなことを考えながら、「雪が降る街」を口ずさみつつ、家路についた。