
山中千尋ニューヨーク・トリオ「モルト・カンタービレ」Concert Ebony
渋谷区文化総合センター大和田さくらホール 1階8列19番
2013/9/23 17:00-19:45
3月に目黒でみたジプシースウィング、ストーケロ・ローゼンバーグ・トリオのライブでゲスト出演していたのが山中千尋だった。NYを活動拠点として世界的に活躍しているジャズ・ピアニストだとそのとき初めて知った。「そのうち機会があったら行こうかな」と思っていたら、意外に早くその機会が来た。
ピアノ(Chihiro Yamanaka)、ベース(Yasushi Nakamura)、ドラム(John
Davis)というシンプルなトリオ編成。オリジナルとカバー曲があって、とにかく超絶な速弾きが持ち味のようだ。例えばビートルズの「イエスタデイ」もそれとわかるのは最初の数小節であって、あとは大胆にアレンジされ、トリオがそれぞれの見せ場でアドリブらしき演奏を聴かせるという趣向。3月のゲスト出演のときとは違ってMCがいっぱいで、終演時間を大幅に超えるほどだったが、ファンには嬉しいサービスだったはず。ずっとやっていたクラシックの練習が嫌でジャズに転向したとか、ライブが長いと聴いてる人が疲れちゃうと母に怒られた話、NYのマンションにイタリア男が勝手に居候を始めて半年だか1年したらいなくなっていたエピソードなど、ちょっと別世界な感じが面白かった。着ていた黒のドレスはお気に入りのデザイナーのものらしく、同じものを10着ほどもっているそうだ。3月のライブでもそうだったが、情熱的に激しく演奏するので、膝上のスカートの裾がだんだんとまくり上がって、演奏が終わる頃には超ミニになってしまっているのだが、さして気にしている風でもない。女性らしさと無頓着さが同居した独特の雰囲気が魅力なのかもしれない。名門バークリー音楽大学を主席で卒業、数々の権威ある音楽賞を多数受賞、すべてのアルバムが国内ジャズチャートで1位になるなど並外れたキャリアとのギャップがファンの心を掴んでいるのだろう。
今回のコンサートは、最新作「モルト・カンタービレ」をひっさげてのもの。20日に行われた紀尾井ホールとは別プログラムになっていて、2公演で「Ebony
& Ivory」という構成になっていたようだ。「トルコ行進曲」や「ピアノ教本「ハノン」をモチーフにした「ハノン・ツイスト」などクラシックの名曲をかなり大胆にアレンジして聴かせてくれた。が、正直なところ、僕は聴き疲れてしまった。音数が多すぎて、しかも速すぎて、まるで湯あたりしたようにのぼせてしまった。消化不良なのかお腹いっぱいなのかわからなくなってしまったが、しかし、とても充実したライブではあった。
ジャズというと、フロリダ・キーウェストのジャズバー「Two friends」のことを思い出す。午前0時前だというのに店内にはあふれんばかりの客がいて、テラス席や店の外でも自由に演奏を聴くことができる。束の間の人生を大らかに楽しむ年輩の夫婦たちをみて、あんな風に歳をとりたいなと二十歳そこそこの僕は憧れたのだった。年月が過ぎ、夢と現実の違いも色々と味わってはきたが、やっぱり、あの瞬間に感じたことは忘れないでいる。いつでもほんの少しだけ背伸びをして生きていようと思う。いつの日か、あの店をもう一度訪ねてみるつもりだ。