「ひらめき脳」
 
 
著者:茂木健一郎
 
 
 ソニーコンピュータサイエンス研究所勤務のほか、東京工業大学の教授、東大、東京芸大、早稲田などいくつもの大学で講師を務め、日本テレビ「世界で一番受けたい授業」にも出演中の脳科学者が茂木健一郎氏である。
 茂木氏の主張は、シンプルでわかりやすい。1つには「現代社会で求められる能力は、創造性やひらめきである」ということ。そして、「ひらめきは、芸術家や発明家といった特別な人だけに必要なものではない」と続く。最近の研究によれば、人間がひらめく瞬間、脳内ではドーパミンが放出され、報酬系と呼ばれる大脳内のシステムが活性化することがわかっているそうである。つまり、ひらめきは気持ちいいことだと、すでに脳は知っているということになるそうだ。「人に褒められたり、お金儲けをするよりも遙かに深く、良質の喜びをひらめきはもたらしてくれる」というのが、茂木さんの主張である。
 この本では、ひらめきの重要性を説いたのち、どうすればひらめきや創造性を高めることができるかが解説されている。詳しくは読んでもらうとして、ここでは簡単な数式を紹介する。
 「創造性=体験×意欲」
ひらめきといっても、無から有が生まれることはなく、側頭葉に蓄積された豊かな記憶(体験)がベースにあって、さらに前頭葉で一生懸命思い出したり考える意欲があってはじめて、ひらめきは生まれるのだそうだ。だから一概に老人が創造性がないともいえず、多くの体験をしてきた老人が意欲をもてば、最強の創造者になれるそうである。
 最後の方に、こんな文章がある。
「人生における成熟の1つの目安は、自分ではコントロールできない要素の存在をいかに認めるかにあると言われている。」不確実なこと、不安定なことに不安やイライラを募らせるのではなく、逆に楽しめるような余裕のある態度が、思わぬ幸運に出会う能力(セレンディピティ)を高めてくれる、ということである。
 このように、この本は単に脳の働きを解説したものではなく、いかに人生を豊かに楽しむかという、よりよい生き方の指南書のようでもあり、オススメの一冊である。
 
(新潮新書)