たぶん後藤勇(以下、「後藤」と称す。)は、音楽に解説など要らないと思っていると思う。「純粋に音楽を聴けばいい!」と言うに違いない。そういう意味では、このライナーノーツは蛇足なのだが、僕の個人的な興味により書かせてもらうので、付録だと思って読んでもらえればありがたい。ついでに触れておくと、タイトルはそのまま訳せば「金の屑」だが、英語では「砂金」を意味する。ザラザラとした中に小さく光る金の屑が垣間見えるようなものをイメージしてみた。
これまでに後藤の唄や曲を集めて発表されたものには、「うーむ。」や「wing」などがあったが、いずれもベスト盤ではない(らしい)。「つねにいい唄が生まれなければ作る意味がない」といつか後藤も言っていたように、本人が作るものはいつも新しい曲が中心になる。それはそれでベストなのだが、一人のファンとしては、もっと初期・中期の曲も入ったタワーレコードなんかで売っているいわゆるベストアルバムが欲しいわけである。そんなわけで、「いつか自分で後藤ベストを作ろう」と、3年前くらい前から秘かに構想をあたためていたのだが、今回、後藤本人からも快く了解が得られ、こうして「GOLD DUST」が作成されることになったわけである。おそらく、後藤音楽初のベスト盤になるものではないかと思う。
さて、選曲は、今までに後藤から個人的にもらった30本近いテープ、CDの中からセレクトした。いろいろな曲を集めてみたいと思い、名曲であってもあえて落としたものもあるし、本人なら選ばないというものも入っている。曲順にもこだわり、単純に年代順ではなく、繰り返し聴いても飽きないように工夫してみた。
今回、選曲のために実に膨大な曲数を聴き直してみたが、改めてその幅広さ、奥深さに驚かされた。たくさんある中の一部ではあるが、後藤音楽の魅力を存分に堪能できる内容だと確信している。ぜひ、ステレオのボリュームをいつもより少し大きくして、そこにある「金の屑」を拾い集めて欲しい。きっと、あなたの心に何かを残していくことでしょう。
最近、後藤は、インターネットを介して海外のアーティストとも活動を始めた。後藤にとって「音楽は人生であり、人生は音楽である」に違いない。きっと、これからも僕らに素晴らしい感動を贈り続けてくれると期待しつつ、このCDをステレオにかけよう!
01 一畳天皇
ユニークなタイトルである。一体何を根拠にこういう曲名をつけるのか知らないが、面白い。この曲はリメイク版。テンポが特別速いわけでもないのに物凄いスピード感があるのは、後藤音楽のひとつの特徴であり魅力ではないかと思う。
02 ゴキブリと犬
渋谷エピキュラスでのライブ音源にベースを重ねたもの。大学時代、後藤はこの唄をよく歌っていた(注.著者と後藤は同級生)。いくつものバージョンがある中で、僕が一番いいと思うのはこれ。「見本盤」というテープには、「ゴキブリと犬(改訂版)」というタイトルになっている。ゴキブリとは後藤のことなんだろうと勝手に想像しながら、僕はこの唄を聴いている。
03 東京都
とってもハッピーなラヴ・ソング。聴いてる方が恥ずかしくなってしまうくらい幸せでいっぱいだ。「東京」と言い間違えて「東京都」なのだとよく後藤に怒られたことを想い出す。
04 bingle
後藤が平田聡君と「なんでも屋」というユニットをやっていた頃の曲だが、ついに歌詞が付けられず、お蔵入りになっていたもの。その名も「発掘」(1995)というテープに入っているが、タイトルも付いてなかったので、今回、後藤の発案で僕の息子が付けることになった。
この曲を聴いた3歳の息子は、何を思ったか「びんぐる」と言いながら、不思議なポーズで踊りまくっていた。
05 豚肉のブルース
珍しくブルース。原曲は後藤の自宅で行われたセッショントラック(注.共演は、田窪さんと廣田さん)にオーバーダブしたもので、これはそのリメイク版。曲は定番という感じだが、詞が面白い。ギターの音色が豚の鳴き声に似ているように思うが、いかが?
06 波止場
イントロの作り方がうまいなぁと思っているうちに、なんとも不思議な雰囲気に引き込まれていく。この曲を入れることについて、「唄がダメだから」と後藤は反対していたが、歌詞の世界がよく伝わる味わい深い唄だと思う。
07 ダブってる
この曲は、吉崎浩一郎さんのバンド「41」の「Overlap」という曲に後藤と平田聡君のユニット「なんでも屋」が唄を重ねたもの。真ん中辺の「ちゃおちゃお」とか後半の「ごぼうににんじん…夜泣きソバ…」といった歌詞がはじけている。(注.曲:41、詞:なんでも屋、編曲:41・なんでも屋)
08 地蔵と盆栽
「最も発想が豊かだった頃の作品」と本人も言っているとおり、すごい唄だ。展開がとても目まぐるしく、次から次へとアイデアがあふれ出てくるような構成。極めつけは「この電話は現在使われておりません」という例の音声。
絶妙かつレアな組み合わせに思わず唸ってしまう。「何故に、地蔵と盆栽?」とにかくスゴイ!
(注.詞:平田聡・なんでも屋、曲:後藤勇・なんでも屋、編曲:後藤勇・なんでも屋)
09 踏切
平野政則君の8ミリ映画「そらいろ自転車」のサウンドトラックにギターを加え、テープ回転を遅くしてイコライザー処理したもの。ちょうどヒロインが踏切の前で泣き出すシーンで流れる曲だそうだ。映像も見たくなる。
10 クリーム
この頃から唄が変わってきたように思う。
カラッと乾いていた声に湿り気が加わったようで、感情がずっと表に出てくるようになった。「アイスクリームが食べかけのままボトッと落ちた」という辺り、まるで映画のワンシーンを見るように映像が浮かぶ。ドライブ感のあるベース、ハードなギターがとても心地よい。
11 真綿
東京・新橋で開かれた「本田周展」(1995.2.26)でのライブで後藤がこの唄を歌った。その帰りの電車の中、思い出すうちに僕は泣いていた。あまりに切なく、淋しく、哀しすぎて、自然と涙がこぼれた。後藤は自分の恋愛をあまり口にしないが、こういう唄では実に情緒豊かに表現する。
12 なのだー
さり気なくうまいな〜と思う。詞が、唄が、バックの音楽がうまく調和して、本当にうまいな〜と思う。
13 ラストシーン
「発掘」(1995)というテープに入っている85年頃の唄。曲の雰囲気と詩の世界がうまくマッチしていて、中学生くらいの少年が味わう甘酸っぱい想いが伝わってくる。細かく刻むリズムマシーンが、この唄に適度なテンションを与えているように思う。
14 Salcimar
ダルシマというロシアの民族楽器があって、その音を使っているのだそうだ。後藤は、音に対してとても敏感なのだと思う。こういったジングルも実にうまく形にする。ちなみにタイトルの邦題は「猿島」。ジングルを集めた「ジングルス」「gm1&2」(1996)というテープに入っている。
15 TEN
前曲と同じジングル集の中に入っている曲。余談だが、後藤がEメールを始めた頃、毎週作曲した曲を添付ファイルで友人らに送っていたことがあった。その名も、「Wgdm=WeeklyGoto Digital Music」。最後の20曲目が送られてきたのがちょうど2000年1月だった。
とにかく多作である。ジングルみたいに短いものなら、目の前でどんどん作ってしまうだろう。
「やはり、天才なのでは…?」
ちなみに、この曲の邦題は「天」。
16 予報
重厚なサウンド。のっけから暗雲立ちこめた東京の空が目に浮かぶ。ちょうどこの頃、後藤は物思いに耽っていたようだ。「誰が泣いていたってわからない」という詞に、当時の後藤の心境が現れているように思う。この唄の長い長い後奏に、心打たれる。まるで冷たい雨が身体を打つように…。
17 画家
「wing」(1999)というテープに収録されている唄。今までにない新しい曲調で、後藤音楽の新境地を感じさせる。印象的なピアノの旋律とウッドベースの音色が心地よい。
18 軟弱
カントリー・フレーバーあふれる唄。
「軟弱な男でいいから大地に種をまく」というフレーズが個人的に気に入っている。
ちなみにホウレン草やコマツナなどの柔らかい葉菜類のことを軟弱野菜とか単に軟弱という。
19 終りの合図
ギターのリフが印象的な曲。「wing」(1999)というテープでは、タイトルどおりラストナンバーになっている。この曲のまさに「終りの合図」が、斬新かつ迫力がある!
20 ふくらみ
後藤の「H三部作」というのがある。「普通」「ラバー」「ふくらみ」。どの曲もバンド用に提供された唄で、「ふくらみ」は「めやに」のために書き下ろされたもの。これはそのデモトラックだが、身体にぶつかってくるようなベースが恰好いいぞ、と思う。それにしても、「身体のどこかのふくらみ」って、一体何を連想させようとしているのだろうか?
21 ワン
このアコギの音色を聴くと、ホッとする。
以前、職場の仲間と岡山に行ったとき、ホテルの隣の公園で、後藤がもってきたギターをつま弾きながらこの唄を歌ってくれたことがあった。僕だけが観客で、遠く夕焼けがキレイだったのを思い出す。後藤がもっともよく歌う唄。代表曲のひとつだろう。
22 ミルキー
何度もリメイクされているが、これは、この唄が生まれた1995年5月の録音。ボーカルもまだ歌いこなせていないと本人は言うが、だからだろうか、生まれたばかりの感情に涙が出てしまう。幼い頃から後藤の隣にいつもいてくれた「おばあちゃん」が亡くなって生まれてきた唄。懐かしさ、切なさ、孤独、優しさ、いろいろな感情をのせてこの唄は歌われている。
23 手品
本物のオルゴールで演奏されている。「なぜ、手品なのか?」この音色、メロディを聴けば、あぁ手品なんだと思うでしょ?
24 金の屑(ボーナス・トラック)
このCDのために作られた後藤のもっとも新しい唄。前23曲とは全く違ったものが感じられる。かき鳴らされるギター、うわずった叫び声にも似たボーカル。作り手の心がぐっと間近に迫る!蛇足ながら、歌詞の中に出てくる「耳の穴」は、後藤のWebSiteの名前でもある。
■後藤勇 音楽活動の軌跡(略式)
1983 吉崎浩一郎さんと「UNPT」というバンドを結成。このバンドで知り合った。平田聡君と後に「なんでも屋」結成。
1985 なんでも屋が開店し、「なんでも屋」が制作される。「地蔵と盆栽」収録。
1987 空缶や灰皿を打楽器に複雑なリズム作りに目覚める。この年、「牛の心に」というテープを作る。
1988 大学でバンド「鰯」を結成。キャンパスの路上ライブが話題になる。
1991 平野政則君の8mm映画「そらいろ自転車」の音楽を担当する。
1995 平田聡君のバンド「めやに」にドラマーで参加したほか、「ガリモレ」「密 会」などバンド活動に燃える!さらに山手線一周路上ライブなど毎月ライブを挙行。この年、「ミ ルキー」「ふくらみ」など新曲が相次いで生まれる。
1999 毎週作曲したDTMを「Wgdm」の名前でEメール送信する。
2000 WebSite「耳の穴」を開設し、後藤音楽を世界に発信。これがきっかけで米国在住のミュージシャン、 Aniie Linさんの音楽プロデュースを手がける。