民生のライブは、3年ぶり。以前はユニコーンを交えて、毎年行っていたことを考えると、かなりご無沙汰である。少し興味が薄れていたというのもあるが、相変わらずチケットが取りにくい事情もある。今回もチケットが取れないと踏んで、13日と14日の両日を申し込んだところ、予想が外れて2日とも当たってしまった!「同じライブの聴き比べも初めてだからいいかな」と気持ちを切り替えた矢先、違う内容のライブだと知る(笑)。「それならもっといいか!」ともう一度気持ちを切り替えて臨んだのだった。初日がMTR&Yバンド、2日目がソロ弾き語り。個人的には、バンド演奏の方が好みだ。それぞれの曲に合ったアレンジや演奏が聴けるからだが、ウムム…?
 我ながら、不思議な結果になった。久しぶりの民生ライブだったのに、初日は、それほど楽しめなかった(涙)。いつもと同じように、中盤から後半にかけてノリのいい曲を固めて、尻上がりに盛り上がっていく演出だったが、なんとなく気持ちがノリきれず置いてけぼりになってしまった(汗;)。初日の残念で期待値のハードルが下がったせいか、2日目は最初から最後まで存分に楽しめた!前日との最大の違いは、MCが多かったこと。弾き語りながらギター以外の音源を使ったり、武道館の真ん中に設置された円形舞台が回ったり、ちょこちょこと小ネタが仕込んであって、そのたびにMCがあってさりげなく観客との距離が縮まったように思う。とりわけ、MTRを使った「働く男」の生録音は楽しかった。2010年にライブ会場で新曲を作る「ひとりカンタビレ」というツアーがあったが(前代未聞のライブだけに、チケットは取れなかった…)、今回はユニコーン時代の「働く男」の音源が入っている8トラックレコーダー(MTR)にボーカルや観客の声をその場で多重録音していく趣向で、例えていえば料理番組をみているような感じだった。素材となる楽器を選び、バランスをとりつつ味を整えて仕上げていく過程がとても興味深かった。題材に選ばれた「働く男」が、意外によかった。「この歌が作れたときに、音楽業界で生きていけると思えた」と語っていたことも印象的だった。「そこまですごい曲だったのか!」と意外だったのだが、今回じっくり聞いてみると、確かにイントロからして意表を突くし、曲の展開も面白いし、ユニークな歌詞にぴったりなボーカル・センスも相まって、非常にオリジナルな完成度の高い楽曲だったんだなと今更ながら気付かされた。手の込んだ一流フランス料理も駅前の豚骨ラーメンも同じ「美味しい」なわけだけど、その味わいの違いを感じとれているかは、ひとえに聴き手に委ねられている。「働く男」の旨味は、なかなかのものであった。
 この2日目のステージをみていて僕は、一人の人間の完成形を見届けたような気がした。ソロデビュー以来24年間、民生の音楽活動をみながら人間としての成長も垣間見てきた。すでに音楽業界でも重鎮といっていい存在だが、その風格を感じるすばらしいライブだった。「やっぱ、民生はすげ~な~!」と思いながら帰路についたのが、2ヶ月前である(笑)。なかなか感想にまとめる時間がなく、はや師走。ライブの詳細は忘れてしまったので、以下、頭に浮かぶことを思いつくまま書いてみる。
 まず、フジファブリックだ。まだ1ヶ月くらい前のことだが、FMラジオから流れてきた「若者のすべて」に惹かれて、フジファブリックのベスト盤を聴くようになった。作詞・作曲とボーカル、ギターを担当する志村正彦は、この名曲を作った翌年、29という若さで急逝していた。その彼が音楽を目指した理由が、民生のライブだったと知って、運命的なものを感じた。いつまでの命かなんて誰にもわからないけど、これが今年最後の花火なんだと歌う「若者のすべて」と彼の死が重なって、胸に刺さってくる。「若者のすべて」は多くのミュージシャンにカバーされているし、現在のフジファブリックでも歌われているが、やはり、志村正彦の声にはかなわない。
 次は脈絡もなく、睡眠負債の話。近頃、時々耳にするが、自分もその一人なんだろう。平日の睡眠時間は、長くて6時間。4~5時間の日が続くと、車の運転が怖くなる。そういう体調でも〆切に追われ続け、できてない部分だけが指摘され続けるうち、少しずつ心身がすり減っていくのがわかる。とりあえず寝ようと決意して、週末、目覚ましなしで寝る。2日くらい続けると、だいぶスッキリする。果報は寝て待てだ!
 先週、2018年の漢字が「災」に決まった。北海道や大阪の地震、大型台風による被害、記録的猛暑などの自然災害もあれば、スポーツ界で相次いだパワハラ問題、医学系大学で連鎖的に発覚した不正入試問題など、人災も多かったということだった。確かに自然界も人間界も災いつづきという印象で、人々の関心が高かったのも頷ける。ただ、その関心は、メディアとSNSの影響も大きい。権力或いは、ある種の権威が報道に圧力をかけているなんてことも耳にする。権力といえば、カルロス・ゴーン会長の逮捕には、驚いた。「ブルータス、お前もか!」である。日産のV時回復をみてきただけに、ゴーン氏には畏敬の念を抱いていた。50億円もの所得隠し、個人的縁故での会社買収、会社経費で世界各地に作らせた別宅など、次々明らかになる新事実は、にわかに信じがたいものばかり。そもそもお金を基準とした判断力が鋭敏だったから、コストカッターとして力量を発揮できたと考えれば、お金への執着心が強いのも頷けなくはない。光があるから陰もできるってことだが、裏表の極端な人とは、冷静かつ適当につき合う必要がある。悪弊が良貨を駆逐するという「グレシャムの法則」のように、人間は集団になるとしばしば悪い方に流されるようだ。利害が衝突する以上、争いがなくならないのは当然かもしれないが、世界各地で内戦や紛争が続く状況を見過ごしていいとは思えない。先日発表されたノーベル平和賞では、コンゴのドニ・ムクウェゲ医師とイラク少数民族ヤジディー族の人権活動家ナディア・ムラドさんが選ばれた。ムラドさん自身が被害者でもある性暴力撲滅を目指した活動が評価されたものだ。夫や子供の目の前で見知らぬ異国の男に犯され、連れ去られて性奴隷にされ、その様子を目撃した兄弟が自殺する。そんな残忍な行為が、今も続いている。ムラドさんらは、この惨事を知って欲しいと自らのつらい体験を公表している。疲れたり、視野が狭くなってくると、他人の心配より自分優先になるから、時々、一人でじっくり、のんびり考える時間が要る。バンド演奏もいいが、一人だからこそ自由に、ゆったりと歌い、語る「ひとり股旅」の方が、今の自分に寄り添ってくれたのだと思う。民生は、今日も、ライブの最後に「さすらい」を歌った。一緒にさすらおうぜって、肩を押された気がした。

第1部
1 花になる
2 CUSTOM
3 ワインの場ばか
4 ミュージアム
5 ギブミークッキー、快楽ギター、イージューライダー(前日ライブのダイジェスト)
6 サケとブルース
7 スカイウォーカー
8 エンジン
~15分休憩~

第2部
9 The STANDARD
10 働く男
11 愛のボード
12 イナビカリ、快楽ギター、KAISUIYOKUMASTER(前日ライブのダイジェスト)
13 白から黒
14 エコー
15 私はオジさんになった
16 風は西から

アンコール
17 マシマロ
18 イージュー★ライダー

ダブルアンコール
19 さすらい

♪奥田民生
12日:MTR&Y 13日:ひとり股旅スペシャル
日本武道館
2018年10月13日(土)17:35-19:40/2階東スタンドS列39番
2018年10月14日(日)17:00-19:20/2階南東スタンドV列56番