Trip to Bali 2012

バリ舞踊といってもいろいろあるので、代表的なケチャッ、バロン、レゴンを観ることにしていた。最初に観たバロン(Barong)は、獅子舞にも似ているギョロ目の聖獣バロン(真実の神)と悪魔の女王ランダが戦う物語。それぞれサデワ王子と死神の弟子カレカが変身した姿なので、日本の戦隊ものの「変身」はバリにルーツがあったのか!と興味深くみた。バロンとランダの戦いは、決着がつかないまま終幕となる。これは、人の心の中には良い魂と悪い魂があって、その二つが永久に共存するというバリの思想(ルアビナダ)が反映したものだそうだ。一神教を信仰する他宗教と際立って違う部分だが、八百万(やおろず)の神に馴染みのある日本人には、親しみやすい考え方に思えた。ちなみにイスラム教が主のインドネシアにあって、バリ島だけは住民の9割がヒンドゥー教徒である。インドのヒンドゥーと土着の信仰が混ざってできたバリ・ヒンドゥーは、インドのものとは少し違っているらしい。たとえば、インドでは聖獣として崇拝している牛は絶対に食べないが、バリでは普通に食べられている。デンパサール辺りでマクドナルドを見かけたが(出店はわりと最近らしい)、もし牛肉がダメだったら、豚丼しか出さない吉野家みたいなものになっていただろうけど…。ちなみに、一般的なバリ人にとって、マクドナルドは特別な時にしか食べられない高価なものだそうである。
ヒンドゥーを信仰しているバリには、カースト制が残っていて、僧侶、王族、貴族、平民に分かれているが、9割を平民が占め、身分による制約もほとんどなくなっているらしい。いまだに身分差別のあるインドとは、この辺も違うようだ。こういうおう揚なところが個人的には肌に合う気がした。とはいえ、バリ人もとても信心深い。ガイドのマハルディカさんに尋ねてみると、輪廻転生は信じていて、人は土と火と水からできているので、はじめに土葬して4〜5年後に掘り返してから火葬し、その灰をヤシの実に入れて海に流すことによって生まれ変われるという。彼自身は、曾祖父の生まれ変わりだと言っていた。また、村には祈祷師がいて、軽い病気であれば祈祷師に治してもらうという。医者に行くより安いし、本当に治ると言っていた。バリの人は、毎日チャナンと呼ばれるお供え物を作り、家の玄関先や店の入口、塀の凹みなどあらゆるところに置いておく。その数はすさまじく多く、それを毎日欠かさないというからかなり徹底している。総本山であるブサキ寺院にも、必ず年に1度はお参りにいくそうである。
話をバリ舞踊に戻そう。次に観たのがケチャッ(Kecak)。このダンスではガムランは使われず、猿に扮した100名もの男性が「チャッ、チャッ、チャッ…」と大合唱する中で進んでいく。いくつかのパートに分かれた猿の鳴き声(チャッ)は、複雑なリズムを奏で、うねりとなって響き合い、実に不思議な高揚感を生み出していた。物語は、インドの叙事詩「ラーマヤナ物語」をアレンジしたもので、悪の大王ラワナに連れ去られたシータ姫をラーマ王子がガルーダ(インド神話に登場する神鳥)の助けを得て、無事に救い出すというお話。ケチャッの前後に、サンヒャン(Sanghyang)も観ることができた。神聖を意味するサンヒャンは、悪霊払いの儀式で踊られたバリに伝わるダンスである。トランス状態で踊るところに特徴があり、2人の少女が踊るサンヒャン・ドゥダリダンスと、燃えさかる炎の塊の上で青年が踊るサンヒャン・ジャランダンスがあった。特にジャランダンスは、素足で幾度も火の上で踊り、素手で火を掴む激しいもので、圧巻であった。
最後に観たレゴン(Legong)は、宮廷舞踊として発展してきたバリで最も美しいといわれるもの。ガムランの調べに合わせて左右に動く黒目、そして、インド古代哲学を表現したものといわれる指先の細かな動きは、バリ舞踊独特のもので、本当に不思議な魅力をもった踊りである。レストランで食事をしながらの鑑賞だったが、すっかり王様気分だった。しかし、王様に慣れてないので、10人近くの女性給仕らに囲まれると逆に落ち着かなかったが…。
数ある南の島の中で、どうしてバリなのかといえば、バリ舞踊とガムランがあるからだといえる。舞踊や音楽にはそこで暮らしてきた人々の宗教や思想が反映されていて、とても興味深い。とりわけバロンダンスでみたように、物事には2つの側面があり、どんな世界も2つの要素から成るというルアビナダの考えには共感するものがあり、なんとなくバリに惹かれていた理由がわかった気がした。
2 バリ舞踊
photo:barong


