SCNE 5
 
 
 
 
「FRANK」
 
 人波の中を歩いていて、ふと、日本とは違った印象を受けた。
人とぶつからないのだ。日本でもぶつかることは滅多にないが、ぶつかりそうになることは多い。人の前を平気で横切ったり、わざとらしく肩を怒らせて突き進んでいく人に不愉快な思いをすることがしばしばあるが、ここではぶつからないようにお互いに相当の気を遣っている。ぶつからなくても接近しすぎただけで「sorry」と小さく会釈されたことがわずか2、3日の滞在中に何度もあった。
日本とアメリカとの、この違いは何だろう。
たくさんの人の中にいて、互いの存在に気が付かない風を装う日本人と、その逆で「気が付いてますよ」と積極的に意志表示するアメリカ人との違い。これは、相当根深い民族的ルーツの違いのように思えた。
 郵便局へ行ったときも、日本とはかなり違う雰囲気を感じた。一言で云えば、とにかく賑やか。客も職員も絶え間なく陽気にジョークを交わしている。待っている客同士も同じように笑いが絶えない。日本の郵便局のし〜んと静まり返った様子とはあまりにも違う。日本ではつい他人行儀になる。いや、アメリカ人だって他人行儀になっているのかもしれない。「フランクに会話をする」というがアメリカ流の他人行儀ということのようだ。
人間同士黙って一緒にいると、妙に怖い。日本は、その沈黙に黙して耐える、アメリカ人は沈黙を無くそうとする。そんな違いがあるようだ。
 サンフランシスコ観光のハイライトはFisherman's Wharf、と云われている。新鮮な魚介類を売り物にしたレストランや屋台、土産屋が多数集結している。いかにも美味そうな店がずらりと並ぶ中、「FISHERMEN'S GROTTO」というレストランに入った。魚介類は元々苦手な口だが、ここなら美味しく食べられるだろうと淡い期待を抱きつつ「舌平目」をオーダーした。純白のお洒落な大皿にデンと横たわった舌平目が1匹、運ばれてきた。ナイフとフォークで不器用に切り分け口に運ぶと、プ〜ンと生臭い。口の中いっぱいに広がる生臭さ。あまりにひどい臭いに、「やはり、まずい物はまずい!」と思った。