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SCENE 15
「ミミズ腫れの男」
早朝6時30分、JFK(ジョン・F・ケネディ国際空港)に着いたときは雨だった。やっぱり雨男なのかと悔しがっていたら、しばらくして晴れた。
僕は空港のロビーで30分ほど「地球の歩き方」を読んで、これから行く街の地図を頭に入れていた。NY(ニューヨーク)の街中で、いかにも慣れない旅行者風情でガイドを持ち歩きたくなかったのだ。そうこうしている間に、同じ便で来た客はみんな出発して、ダウンタウン行きケアリーバスの乗客は自分一人だけになってしまった。それでも、時間が来たら、大きなバスは僕一人を乗せて出発した。
この大型バスの運転手は黒人だった。寝起きのせいなのか、乗客が少ないせいなのかわからないが、たいそう不機嫌そうな顔をしていた。僕は一番前の席に座り、思い切って声をかけてみた。やはり、不機嫌そうに話すが、僕が下手な英語で必死に話しかけるので、そのうち打ち解けてきた。外の景色も見ず話に集中していると、アッという間に目的地に着いてしまった。心の準備をする間もなく、僕はたった一人、NYの「グランド・セントラル・ステーション」に降り立ち、その場にポツンと立っていた。東西南北がまるでわからないままだが、とにかく勘を頼りに歩き始めることにした。ここで地図なんか広げてたら、きっと悪い奴らに目を付けられるに違いない。朝早いせいか、歩いている人はほとんどいなかった。
少し歩いて、大きな交差点の信号で止まった瞬間、わりと小柄な黒人がいつの間にか僕のすぐ後ろにいて、僕に向かって何か言った。目がギョロとこっちを睨んでいる。
「タクシーに乗れ!」と言っていた。僕は身構え、はっきり「No thank you!」と断った。白タク(非公認)だろうか?しかし、ギョロ目は諦めない。ふと見ると、男の首筋には10cmくらいの太いミミズが数匹這っているような腫れ物があった。ナイフの傷にも見える。辺りをうかがうような目で「タクシーに乗れ!」とかなりしつこい。僕はますます警戒し、「I will walking!」と言い捨て、急ぎ足で歩き出した。追ってくると厄介だったが、幸い諦めて去っていった。歩く先々にも黒人のホームレスがゴロゴロしていて、気味が悪かった。「NYはやはり怖い!」僕は、逃げるようにホテルを探し歩いた。
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