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「僕らのワンダフルデイズ」
53歳になる主人公が余命半年と知って、一度は奈落の底に突き落とされるが、
高校時代のバンドを再結成することで自らを奮い立たせ、再生していく物語。
と書くと、ドラマや映画ではとうに使い古されたかのような話ではあるが、
これが意外に笑えて、予想以上に涙腺を刺激されてしまった。
最も重要なポイントは、主人公・藤岡徹を竹中直人が演じた点だろう。
末期ガンと知ったあとの意気消沈ぶりも復活したバンドでのはじけぶりも、
かなりのオーバーアクションではあるのだが、
愛すべき好人物像のキャラが立っていて、とても好感がもてた。
映画を見終えてから、監督の星野さんが女性と知って、意外な気がした。
オリジナル脚本を書いた西村さんも女性なのだが、むしろ男性的で骨太な印象である。
主要な登場人物も男ばかりだが、案外脆い男たちを支える女性の配置もとてもうまくて、
中でも藤岡徹の妻・章子(浅田美代子)の明るさと強さは、ドラマの華であったように思えた。
星野監督は長くテレビドラマを作ってきた人らしいが、
たくさんの登場人物たちに広く目を向け、誰をどう動かすかのバランス感覚が絶妙だった。
そういう意味でいうと、とてもわかりやすい人物ばかりともいえるが、
だからといって退屈な人たちではない。
この作品の魅力は、まさにそこにあるともいえる。
ひとりの人間が死に直面したときに、周囲の人たちもそれに関わり、巻き込まれ、
支え合いながら、死を受け入れていく過程がコミカルかつリアルに描かれている。
「いい大人」が高校時代のバンドを再結成するくらいで、どうなんだろうと思ったのだが、
この映画は十分な説得力をもっていた。
ドラマは途中で予期せぬ展開をみせる。
そこが、脚本のうまいところで、「他人事だった死が自分事になる」という
本作品のテーマが引き立つ部分でもある。
この映画の音楽アドバイザーを奥田民生が務めている。
この映画を見ようと思った理由はそこにあったのだが、
「ワンダフルデイズ」とは、「すばらしい日々」である。
ユニコーン時代に民生が書いた名曲「すばらしい日々」ともシンクロしているかのようで驚いたが、
今回民生が書きおろした「僕らの旅」と「ドキドキしよう」を
劇中のおやじバンド、シーラカンズが吹き替えなしで演奏している。
メンバーの中でドラムの稲垣潤一を除くとプロの音楽家はいない。
ヴォーカルの竹中直人は音楽アルバムをリリースした経験もあるようだが、
ギターの宅麻伸とベースの段田安則は楽器未経験、
トランペッターの斉藤暁もキーボードは初めてという状態から猛特訓したそうで、
それはシーラカンズ再結成とまるで同じ状況を辿ったわけである。
シーラカンズ同様に大変だったろうが、その必死な感じが演技を超えて伝わってきたと思う。
ちなみに「僕らの旅」は、高校生バンドの演奏力と当時のGS的な音を意識しつつ、
竹中直人が好きだという加山雄三っぽさも盛り込んで作られたそうで、確かにそんな歌になっている。
「生きていることは、奇跡です」
この言葉で締めくくれるクライマックスシーンからエンディングまでが素晴らしい。
本編が終わると同時に流れるテーマ曲、民生の「雲海」が深く深く心に染みてきた。
星野監督、すっごくいいなぁと思える瞬間だった。
TOHO川崎
DATA
日本映画/2009年/112分/監督(星田良子)/オリジナルストーリー・脚本(西村沙月)/
脚本(福田卓郎)/シーラカンズ・プロデュース(森英治)/音楽アドバイザー(奥田民生)/
出演(竹中直人、宅麻伸、斉藤暁、稲垣潤一、段田安則、浅田美代子、貫地谷しほり)
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