|
「劔岳」
−点の記−
木村大作、50本目にして初めての監督作品という一点に期待して、見に行った。
木村さんの名を初めて記憶したのは、降旗康男監督の「鉄道員」(99)のキャメラマンとしてだった。
さらに降旗監督の「ホタル」(01)でも木村さんの名前があったのだが、
桜並木のシーンのあまりの美しさに、このキャメラマンはすごいと感動したのである。
511人収容の丸ノ内TOEIはかなりの混みようで、その大部分が60以上の年配者が占めていた。
なにしろ木村監督は、撮影時68歳である。
空撮をせず、実際に山頂へ何度も登っての撮影は、過酷そのものだったという。
それを成し遂げた木村監督をはじめ、スタッフや俳優の熱意の結晶のような映画である。
何よりもまず、キャスティングがすばらしい。
陸軍の測量手柴崎役の浅野忠信、その妻葉津よ役の宮崎あおい、
測量隊の案内人となる宇治長次郎役の香川照之、
他にも役所広司や井川比佐志、夏八木勲、小澤征悦などなど一流の俳優人が勢揃いである。
浅野さん扮する柴崎は、多くを語らず、しかし必要なことはしっかり話すという姿勢がとても好感をもてた。
香川さんを初めて見たのは中国映画「鬼が来た!」で、体当たりの演技に圧倒されたが、
その後、ひっぱりだこになって、いろいろな役に扮しているが、
どんな役をやっても香川照之でしかないのに、ちゃんと「役」として見られるのは本当にすごいと思う。
陸軍に所属する柴崎は、国家の命を受けて、劔岳初登頂による地図づくりに挑む。
あまりに困難な仕事であり、「そこまでして地図を作る意味があるのか?」と疑問を抱くシーンにジーンときた。
人は、無意味なことのために苦しい思いはしたくないが、
そこに自分なりの意味を見いだせれば、命がけの努力もできる。
人は長い道の途中で何度も迷い、無駄な寄り道をすることも多いが、
ときには「一途」に生ききる運命にもあるようだ。
上司の命令に疑問を感じた主人公に、かつて同じ測量手として働き、
すでに現役を退いている古田盛作(役所広司)が投げかける言葉が心に染みた。
「たとえ評価されなくとも、何を為したではなく、何のためにしたのかが大事だ。」
木村監督が過酷なこの映画製作を思いたった背景には、
マネー資本主義に振り回される今の時代に対して、
利でもなく名のためでもなく志をもって生きる意味を伝えたいという「一途」な思いがあったようだ。
劔岳から遠く富士山を見渡すシーンがある。
まっすぐ目の前に見える山陰は、実は遙かに遠く、その途中にはたくさんの山々がそびえ、
簡単には辿りつけない。
しかし、それでも富士山は見えている。
ただただ一途に「富士山」に向かって生きたいと思った。
丸ノ内TOEI
DATA
日本映画/2009年/139分/監督・撮影(木村大作)/製作(坂上順、亀山千広)/
脚本(木村大作、菊池淳夫、宮村敏正)/原作(新田次郎)/音楽(池辺晋一郎)/
出演(浅野忠信、香川照之、松田龍平、仲村トオル、宮崎あおい、夏八木勲、役所広司)
|