「椿三十郎」
 
 
 
黒澤明監督「椿三十郎」(1962)のリメイクである。
前年に作られた「用心棒」(1961)が大ヒットしたのを受け、
登場人物の名を同じ「三十郎」とし、主役も同じ三船敏郎で作られたそうだ。
興行収入は4億5千万円を超え、年間第2位の大ヒットとなった作品である。
 
その黒澤版と同じ脚本で作られたというのが、今作の興味深いところである。
「黒澤明さんの作品には、時代を超えて面白いストーリーラインがある。」と角川春樹氏のコメントがあったが、
同じ脚本を「今」作るとどうなるか、そこに作り手のメッセージがあるに違いない。
監督は、「家族ゲーム」や「失楽園」「間宮兄弟」など、
時代時代に合った作品づくりで定評のある(と個人的に思ってる)森田芳光氏で、
森田監督の意見で、主演は織田裕二になったそうだ。
三船敏郎と織田裕二、全然違うタイプだが、どうだろうか?
 
オープニング、「椿三十郎」の題字やタイトルバックの音楽からして、
いきなり黒澤映画そのもののように始まる。
60年代にタイムスリップしたかのような不思議な既視感を覚えながら、
映画を見るわくわく感を久しぶりに強く感じたような気がした。
しかし、見始めると、黒澤・三船コンビがもつ圧倒的な迫力に比べて、
なんとなく物足りなさを感じてしまった。
織田裕二の台詞まわしは三船敏郎を意識してるようだが、あんな凄味はない。
こういう比較心理は、リメイク映画や原作を先に読んでる場合などにどうしても感じてしまい、
それが最後まで尾を引いてしまうこともあるが、
今作においては途中から違和感が薄れ、知らぬ間に「現代版」三十郎の魅力にはまってしまっていた。
そういう意味では、「踊る大捜査線」で現代版ヒーローの存在感を見せつけた織田裕二の実力は本物といえよう。
 
今作の脚本は前作と同じながら、キャラクター設定には微妙に違った味付けがなされている。
黒澤監督の三十郎は、強烈な個性と他を威圧するような強力なリーダーシップで周囲を牽引していくタイプだったが、
今作の場合は、複雑にみえる周辺状況を的確に把握して、敵味方を分別しながら、秘策を練っていくという感じである。
「それが、現代における指導者の資格だと思うんです。」と森田監督はインタビューで語っているように、
戦争を知ってる世代がこれから高度成長期に向かっていく時代と、
そのあとの時代とで求められるリーダー像や支持する人の志向が違うのは当然なのかもしれない。
 
森田監督のこだわりは、なかなか凄まじいようだ。
殺陣シーンでのアクション、音、セットの仕上がり、音楽の音質など、
映画を構成するあらゆる部分について細かな要求が出され、
それを表現できるまで何度でもやり直しが続いていく。
 
そうやって完成した森田・織田版「椿三十郎」であるが、なかなかのエンターテイメント作品である。
全編を通じてただようユーモアが笑いを誘い、
常に適度な緊張感があり、なおかつ感動的なクライマックスが用意されていて、
映画っていいなっていう気分で見終えることができる。
やはり脚本がよく練れていて、約2時間で世の中にいる大抵の人間というものを見てしまうような気がした。
これは、見ても損はしない!
 
 
 
DATA
日本映画/2007年/119分/監督(森田芳光)/
製作総指揮(角川春樹)/原作(山本周五郎)/脚本(菊島隆三、小国英雄、黒澤明)/音楽(大島ミチル)/
出演(織田裕二、松山ケンイチ、佐々木蔵之介、豊川悦司、小林稔侍、風間杜夫、西岡徳馬)