「東京物語」
約30年くらい前に観たときは、「一体、何が面白い?どこが世界的な名作?」という感想だったと思う。
以来、自分の感性に合わないと思って、小津安二郎監督作品は敬遠していた。
しかし、例えばアキ・カウリスマキ監督は、「東京物語」を観て映画を撮ると決心し、以来小津監督を敬愛してやまないと聞く。
他にも世界中の映画監督に影響を与えているという話を耳にするたびに、
好みの問題だけでなく、自分の理解力不足のせいかもしれないという後ろめたさを感じていた。
初見で全く面白くなかった「2001年宇宙の旅」(68)が観る度に面白くなり、
今となっては、唯一無二のSF映画として好きな作品になった例もある。
ふと、思い立って、昨年(2024年)の1月、小津監督の「彼岸花」(58)をDVDで観た。
文句なしに面白かった!
心に響く台詞の数々、脇役も丁寧に描かれ、すべてのシーンに無駄がない。
山本富士子扮する幸子の魅力に圧倒され、100点満点の満足感だった。
小津監督作品の良さがわかるようになったことも嬉しかった。
描かれているのは、昭和33年のごく普通の日本人の暮らしぶり。
「男はつらいよ」シリーズにも通じるが、日常の中にある人情、親子の愛、人と人との絆、
そういったものが当たり前のようで、実はとても尊いものであることを描いている。
若い頃には気付けなかったことが、歳をとって身に染みてくる。
令和7年は昭和で数えるとちょうど100年に当たるらしい。
今年7月に閉館となる丸の内TOEIでは、昭和100年映画祭をやっていて、
その中に「東京物語」もあると知って、スクリーンで観ることにした。
ちゃんとわかるかなと内心、ドキドキしながら約30年ぶりのリベンジである。
殆ど記憶に残っておらず、初見のような感じだった。
すぐに面白いと感じた。
何気ない会話や暮らしぶりに懐かしさが込み上げてくる。
物語は、尾道に暮らす老夫婦、平山周吉(笠智衆)ととみ(東山千栄子)が東京にいる子供達を訪ねてくるところから始まる。
最初に訪ねる長男の幸一(山村聡)は町医者をやっていて、両親を東京見物に連れ出す直前に急患があって、
敢えなく延期することになり、子供達は大ブーイングである。
仕方なく長女の志げ(杉村春子)を訪ねるが、こちらも美容院をやっていて平日は忙しく、何しに来たんだろうと陰口をこぼす。
行く当てもなく退屈しているのを見かねた志げは、戦死した次男の妻・紀子(原節子)に両親の相手を頼む。
紀子も仕事があるが休みをとって、義父母を東京見物に案内する。
とまあ、どこにでもありそうな、平凡な話である。
突飛な事件もなく、派手な演出もなく、特異な登場人物もいない。
若い頃に観たときは、さぞ退屈したんだろうと思う。
しかし、今は、自分の半生と重ねて観てしまう。
すでに他界した義父母のこと、認知症の両親のこととだぶる。
人生の中には進学や就職や結婚といった大きなイベントもあるが、
殆どは平凡な日常が連綿と続いていく。
一見退屈にみえる日常の中にも、かけがえのない大切な営みがあるが、
そのことにはなかなか気付くことができない。
失って初めて気付くか、気付いていても気付ぬふりして後回しにするのがオチだ。
短い東京巡りから帰郷するときの老夫婦の心境がすべてを物語っている。
当時49歳、笠智衆の枯れた演技が圧巻である。
浄土寺から周吉と紀子が朝日を眺めるエンディングが有名だが、
それでも夜は明ける、という普遍的な描写が時代を超えて心に沁みてくる。
終演後、劇場内に静かな拍手が起きた。
丸の内TOEI
DATA
日本映画/1953年/135分/モノクロ
監督(小津安二郎)/脚本(野田高梧、小津安二郎)/音楽(斎藤高順)/
出演(笠智衆、東山千栄子、山村聰、三宅邦子、原節子、香川京子)
KINGS MAN