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「単騎、千里を走る。」
−Riding Alone for Thousands of Miles−
チャン・イーモウ作品は、「英雄/HERO」(03)、「LOVERS」(04)と歴史大作が続いていたが、
今作は、実に穏やかな普通の人のドラマとなっている。
とはいえ、主人公の高田を演じるのは、高倉健である。
この作品は、「とにかく、高倉健さんを撮る」というそれだけのアイデアから始まり、
5年間、何度も脚本を書き直して完成させたものだという。
舞台となるのは、雲南省麗江市。
その昔は、雲南とチベットを結ぶ交易の拠点となる町だったそうだ。
高田剛一(高倉健)は、長年の確執で断絶状態にある息子健一(声:中井貴一)との親子関係を
修復したいと願って、単身、中国へ行く。
その目的は、「三国志」の関羽にまつわる仮面劇「単騎、千里を走る。」を、
息子に代わってビデオ収録しようというものだった。
この仮面劇は、曹操に囚われた関羽がただ独り、劉備の妻を救って劉備のもとへと帰還する話で、
微妙に物語とも重なり合う。
また、仮面劇というのが、なかなか本心を言えないで仮面をかぶってきた高田親子を象徴しているようでもある。
さらに、「単騎、千里を走る。」を演ずる舞踏家リー・ジャーミン(リー・ジャーミン)と、
生き別れになった息子ヤン・ヤン(ヤン・ジェンボー)との話や
ヤン・ヤンと高田との交流、さらに旅先で会う中国の人々との交流が静かに描かれていく。
「現実は小説より奇なり」というが、日々のニュースを見ていると、
本当に現実の方が余程迫力があって凄味があるという気がしてくる。
身近な話でも、「へぇ、そうなんだ!」ってビックリしたり、感動したりすることが実はいろいろある。
そういう意味でいうと、今作は、むしろ「現実」に近い感覚で見てしまった。
ヤン少年は、8万人の中から選ばれたそうだが、その他の出演者も大部分が地元の素人である。
そして、中国の奥地の人々との自然な触れ合いの中にいる「高倉健を撮った」という感じである。
中国の文化大革命が終わり、外国映画の開放が始まった1978年、最初に封切られたのが、
高倉健の「君よ憤怒の河を渉れ」(76)だったそうである。
この映画は大ヒットし、高倉健は中国でもっとも有名な日本人になったという。
高倉健というと、「網走番外地」「昭和残侠伝」など任侠モノのイメージが強いが、
山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」(77)で全く違った普通の人を演じて、
新たな人物像を作り上げた。
そして、近年の「鉄道員」(99)、「ホタル」(01)では、全くヒーロー的な恰好よさを脱して、
ごく普通の人間の愛すべき庶民性をたっぷりとにじませて、しみじみとした人間愛を感じさせてくれた。
「単騎、千里を走る。」でチャン・イーモウが撮った高倉健もまた、その流れを汲む主人公だった。
今作の日本パートを撮影したのが、「鉄道員」「ホタル」を撮った降旗康男監督と
木村大作撮影監督だったというのも、なかなかなところである。
「まごころが世界を変える」というのが、この映画の宣伝文句だが、
それを信じつづけるしぶとさと、実行する勇気と、
そのためのちょっとした遊び心が大切、という気がする。
新宿コマ東宝
DATA
中国映画/2005年/監督(チャン・イーモウ)/脚本(ツ"ォウ・ジンジー)/
日本ユニット・スタッフ監督(降旗康男)/撮影監督(木村大作)/
出演(高倉健、リー・ジャーミン、ジャン・ウェン、チュー・リン、ヤン・ジェンボー、寺島しのぶ)
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