「僕のスウィング」
−SWING−
 
 
主人公のマックス少年は、10才。
「なぜ、10才なのか?」
トニー・ガトリフ監督のインタビューによるとこうだ。
「私は偏見や先入観のまったくない純粋な視線を持った一人の少年が、
彼にとっては未知の世界を前に、どう対応していくのかを描きたいと思っていた。」
なるほど、私も同感である。
先入観のない純粋さ、自分の世界を広げようとする果てしない好奇心、
その「心」のみが未来を拓く無限の可能性をもっているのだろう。
 
映画のなかに、「マヌーシュ・スウィング」というジャンルの音楽が登場する。
ロマ民族(ジプシー)の天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト(1910-53)が作り上げた音楽で、
「ジプシー・スウィング」とか「ジャズ・マヌーシュ」とも呼ばれている。
ジャンゴはデューク・エリントンに認められて仏から渡米し、ジャズ・シーンにも絶大な影響を及ぼした。
映画の中でマヌーシュ・ギターの名手ミラルド役を務めているのが、
ジャンゴ後継者の一人であるチャボロ・シュミットである。
チャボロの目の覚めるようなギター演奏やライブ・セッションが随所に挿入され、
さながら「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のようであるが、
「ブエナ…」はドキュメント・タッチにこだわって少々退屈だった。
その点本作は、マックス少年とロマの少女スウィングとの淡い恋物語も折り重なり、
「小さな恋のメロディ」的にも十分楽しめる内容になっている。
 
ロマ民族(ジプシー)は今から1000年も前に、北西インドからヨーロッパに移動してきたそうだ。
各地に分散しながら定住し、それぞれに独自の文化を築いていった。
スペインでは「フラメンコ」、フランスでは「マヌーシュ・スウィング」という具合である。
ロマの文化は、口承の文化で文字をもたない。
また、死んだ者のことを語らないという特徴をもっている。
そのためマヌーシュ・スウィングには、譜面がない。
「僕たちの音楽は、心と耳の音楽だ」とミラルドがマックス少年に語るシーンがなかなかいい。
また、ロム民族はナチにより大量虐殺された過去をもつが、
それもまた、死を語らぬという文化ゆえに歴史のなかに埋もれつつある。
この映画では、数少ない当時の生き残りで、本人の収容所体験を語ってくれるという女性が、
ミラルドの母親役として登場する。
彼女が過去を語るシーンは、そこだけドキュメンタリーのように撮影され、真実ゆえに心打たれる。
 
少年らの無邪気な恋物語に微笑みながら、陽気な「マヌーシュ・スウィング」に酔いしれる、
そんな素敵な作品である。
 
 
 
DATA
仏映画/2002年/監督・脚本(トニー・ガトリフ)/
音楽(マンディーノ・ラインハルト、チャボロ・シュミット、アブデラティフ・チャラーニ、トニー・ガトリフ)/出演(オスカー・コップ、ルー・レッシュ、チャボロ・シュミット)