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「鈴木先生」
青春映画は好きな方だが、学園ものとなるとちょっと退いてしまうところがある。
確たる理由があるわけではないが、今作もノーチェックのままスルーしていた。
数日前、たまたま受けた仕事仲間からの電話で、
「映画好きなら、ぜひぜひ見て下さい」と半ば懇願され、
あまりに熱く勧められたので、早速、劇場に足を運ぶことに相成った!
原作は武富健治のコミックスで、2011年にはテレビドラマ化されたが、
低視聴率に終わっている。
にもかかわらず、放送文化基金賞など数々の賞を受け、内容に対する評価は高かったようだ。
鈴木先生役の長谷川博己が昨年(2012)出演していた「家政婦のミタ」が大ヒットしたこともあり、
紆余曲折を経て、辛うじて映画化実現に至ったのである。
てなことで、コミックスもドラマも知らず、予備知識ゼロ、過剰な期待も極力抑えて見てみた。
冒頭、鈴木先生(長谷川博己)の妄想シーンが可笑しくて、すぐに引き込まれた。
生徒と先生のやりとりも台詞がよく練られていて、なかなかに面白い。
今どきの中学生は、先生に対してもハッキリ主張するし、
生徒同士がもめて、たちまちクラス中がざわつき出したりもする。
「うわわ、大変だ…」と見ていて思うのだが、鈴木先生は、的確にさばいていく。
その姿勢は、常識に囚われない冷静な状況判断と誠実な対話で貫かれている。
頭ごなしに上から押さえつけるようなことは絶対にしない。
独自に考案した「鈴木式教育メソッド」と呼ばれる「実験」によって、
理想のクラスを作ろうとする鈴木先生の挑戦は、とても興味を駆り立てられるものだった。
教え子である小川蘇美(土屋太鳳)との妄想シーンが何度も出てくるのはご愛嬌だろう。
熱血とはいえ、完璧な先生ではなく、平凡な人物像というところが新鮮なのだ。
対立軸としての足子先生(富田靖子)のキャラも立っていて、劇画ちっくではあるが、
登場人物一人ひとりの心理描写も丁寧だし、台詞も厚みがあってことごとく説得力がある。
若者の就活の厳しさや引きこもりの問題など今日的な題材も適度に盛り込まれており、
どんどん興味を駆り立てられてしまった。
「演ずること」の効能が鈴木先生から生徒らへ繰り返し伝えられるところも、強く印象に残った。
自らは立派な先生を演じ、生徒らもまた思い思いにいい生徒を演じているのかもしれない。
それが一概に悪いとは思わない、と鈴木先生は説く。
社会で生き抜いていく上での力になることがあるからだ、と肯定される。
かなり斬新なメッセージではないだろうか。
いじめや体罰、様々な問題が表面化するたびに厳罰化され、新たなルールが作られているが、
対処療法ばかりで根本的な解決には誰もが手をこまねく傍観者になっているようにも見える。
規則ばかりが強化されると、結果として身動きの取りづらい、居心地の悪い空気の中で、
お互いが益々窮屈になってしまい、それがより陰湿ないじめ、体罰へと連鎖していくようにも思える。
例えば、昔からある道路に、次々と信号機が設置されていく。
「安全のため」という金科玉条を徹底することに、誰も異論はないのかもしれない。
しかし一方で、個々のドライバーの裁量は奪われ、
譲り合い、安全意識を含めたトータルの運転技術は低下していくようにも思える。
今作での「生徒会選挙・全員投票」のエピソードと通底した現代社会の「落とし穴」を感じないではない。
「白黒ハッキリさせるだけでなく、人間にはグレーゾーンも必要なのでは」という台詞があったが、
車のハンドルと同じで、適度な「遊び」がないと、人間はうまく走れないものだと思う。
脚本が古沢良太と知って納得だった。
「ALWAYS」シリーズ、そして、何より「キサラギ」を書いた彼のシナリオは、人物描写に優れ、
あちこちに張り巡らせた伏線の回収率が非常に高いのは折り紙つきである。
1年に数本出会えるかどうか、そんな大傑作だった。
強力に推薦してくれたOさん、ありがとう〜!
TOHOシネマズららぽーと横浜
DATA
日本映画/2012年/125分/ビスタサイズ/
監督(河合勇人)/製作総括(井澤昌平)/脚本(古沢良太)/原作(武富健治)/音楽(大友良英)/
出演(長谷川博己、土屋太鳳、風間俊介、富田靖子、でんでん、臼田あさ美、田畑智子)
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