「ステキな金縛り」
−A GHOST OF A CHANCE−
 
 
 
本作封切りを前に、三谷幸喜監督がNHK「プロフェッショナル」に登場した。
一度もカメラを止めないワンシーン・ワンカットのテレビドラマ「SHORT CUT」の撮影現場に
完全密着したものだったが、想像を遙かに超える大変な挑戦に脱帽だった。
三谷監督の素顔は、その作風からの想像とは少し違って、マジメでクールな感じだった。
物事への強い執着とやや神経質な一面が、緻密に計算された笑いを生み出すのかもしれない。
 
三谷氏の脚本は、役者に合わせて台詞を書く徹底した「当て書き」による。
しかも、すべてを書き上げる前に芝居稽古が始まり、役者の芝居を見ながら、
どんどん書き換えていくという独特の手法をとっている。
覚えた台詞が変わっていくので役者は大変だろうが、
少しでも面白いものを作ろうという主旨に賛同し、それを演じきれる役者が「三谷組」には大勢いる。
今作出演者の顔ぶれを見ても納得だが、日本を代表する役者が勢揃いである。
「当て書き」された登場人物らは、それぞれ演じる役者本人のようで面白い。
 
本作は、「THE 有頂天ホテル」(06)、「ザ・マジックアワー」(08)に続く、監督5作目になる。
ビリー・ワイルダーを敬愛しているだけあり、その作風はウィットとペーソスに富み、
笑いながら、ふいに涙腺が緩んでしまったりする。
「ステキな金縛り」の「法廷に証人として幽霊を出す」というアイデアが浮かんだのは、
10年以上前だという。
「前代未聞の裁判になるぞ〜」という速水弁護士(阿部寛)の台詞のように、
全くありえないストーリーだが、様々な仕掛けが「現実」にさせてしまう。
それは完全犯罪を装った事件のトリックを暴いていく「古畑任三郎」の世界を逆にして、
トリックを使ってありえない話を現実にしていくような面白さである。
 
今作の主役は、三流弁護士・宝生エミ役の深津絵里(絵里だからエミなのか?)。
本人曰く、「こんなに出番の多い映画は今までにもないし、これからもないでしょうね(笑)」。
並み居る役者の先頭に立って堂々たる主演を演じた後でこの謙虚な精神構造は、
確かにエミに通ずるように思えて好感がもてる。
この映画の着想も面白いが、何よりグッとくるのは、それぞれの登場人物だろう。
奇抜なメイクで落ち武者を演じた西田敏行さんは登場するたびに可笑しかったし、
いかにもマジメな歴史学者がご先祖との再会に号泣してしまう浅野忠信のコミカルな演技もよかった。
また「ザ・マジックアワー」でヤクザ役だった売れない役者・村田大樹が、
相変わらず売れずに、時代劇のちょい役を熱っぽく演じてる佐藤浩市も大いに笑えたし、
個人的に一番ツボだったのは、エミの上司である速水弁護士役の阿部寛。
「トリック」の上田教授にかぶるキャラクターではあるが、
2枚目のルックスと突飛な行動とのギャップがかなり可笑しかった。
笑えるシーンを数え上げればキリがないが、ふと冷静にみて共感してしまったのが、
エミとは敵役となる検事・小佐野役の中井貴一だった。
理路整然とした敏腕検事がふと見せる喜怒哀楽が一筋縄ではいかない人間の奥深さを見せてくれる。
死んでしまった愛犬ラブと再会するところは笑って泣ける名シーンだったし、
弁護側の主張が優勢になってくると、「裁判は勝ち負けではなく、真実を見つける場だからね」と
しつこく何度も言うところが、中井貴一ならではの爽やかな味わいと相まってよかった。
ネタバレになるので書かないが、エミが今は亡き父(草薙剛)と再会するところの演出もよくできていて、
本作が感動作といわれる所以だろう。
 
エンディングに流れるテーマ曲「ONCE IN A BLUE MOON」もよかった。
深津絵里と西田敏行が歌い、コーラスは法廷ボーイズ(KAN、中井貴一、阿部寛、小林隆)!(笑)
映画=娯楽。
三谷映画の醍醐味を存分に堪能できる作品である。
 
 
 
DATA
日本映画/2011年/142分/シネスコサイズ/
脚本と監督(三谷幸喜)/製作(亀山千広、島谷龍成)、音楽(萩野清子)/
出演(深津絵里、西田敏行、中井貴一、竹内結子、阿部寛、小日向文世、佐藤浩市、浅野忠信、
KAN、戸田恵子、深田恭子、生瀬勝久、篠原涼子、唐沢寿明、小林隆)