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「スラムドッグ$ミリオネア」
−SLUMDOG $ MILLIONAIR−
英国で発祥したクイズ番組「クイズ$ミリオネア」は、世界80カ国以上で放送されているそうである。
映画の舞台となるインドでもインド版が2000年から放送されて人気なのだそうだが、
その番組にスラム育ちの若者が出演して、多額の賞金がかかる難問に次々答えていくという物語である。
クイズ番組が題材の映画というのを見たことがないし、はじめは興味も湧かなかったが、
08年度の米アカデミー賞では「ベンジャミン・バトン」を完全に抑え、
作品賞、監督賞、脚色賞など主要8部門を受賞してしまったのだから、
単なるクイズ映画ではないのは確かだろう…。
映画の冒頭、番組と同じようにクイズが用意されていた。
「彼がなぜミリオネアになれたのか?」
4択は、A/インチキだった。 B/ついていた。 C/天才だった。 D/運命だった。
「え〜」と考えてる間もなく本編が始まり、臨場感たっぷりの「クイズ$ミリオネア」の会場に取り込まれてしまう。
主人公ジャマール・マリク(デーヴ・パテル)が設問に答えるたびに、
なぜ、その答えを知っているのかが回想シーンとして描写される。
彼の脳裏に浮かぶスラム街での過酷な子供時代の日々。
インド最大の映画スター、アミタブ・バッチャン(実在)のサインを必死でもらうシーンに笑ったり、
物乞いをして警察に追われながらも逞しく生きる生命力に感心しながら、
今の日本では想像もつかないようなシーンの数々に圧倒されてしまう。
この映画はPG12に指定されており、目を覆いたくなるような残酷シーンもある。
ドラマではあるが、どことなくドキュメンタリーを見ているような感じもした。
ジャマールは1つ1つ正解を重ねながら、熱狂する観客の中で、
微かに苦悶の表情を浮かべていることがある。
彼の中で蘇る記憶、例えばヒンズーとイスラムとの暴動で最愛の人を失ったこと、
そして、運命の女性と離ればなれになってしまったことなどが彼の心を押しつぶそうとしていた。
映画を見終え、これが「トレインスポッティング」(96)のダニー・ボイル監督作品だと知って、納得だった。
薬物中毒に溺れる若者たちの出口のない日々を描いた「トレインスポッティング」は、
まるで暗く長いトンネルを列車が猛スピードで駆け抜けていくような疾走感があったが、
それと似たような後味が残った。
しかし、今作の方が遙かに秀作で、何より夢や希望に満ちた前向きな作品なのがいい。
現にインドでは、この映画がスラムの貧しい人々に希望を与えているという。
劇中にもあったが、以前スラムだった場所が巨大なオフィス街に変貌したり、
先進IT企業のコールセンターがインドに集約したりと、
今、インドは世界で最もエネルギッシュな都市の1つなのである。
その無尽蔵のエネルギーが今作にも十二分に反映されているようだ。
ボイル監督はインタビューの中で、「ムンバイにはエネルギーの大きな波がある。…生きている感覚。
あの街は命を称えている。死も暴力もたくさん存在するが、生命力溢れる感覚に圧倒される。」と言っている。
ジャマールがなぜ「クイズ$ミリオネア」に出演することになったか、終盤に明らかになる。
夢をあきらめない一途な思いだけで駆け抜けた半生。
すばらしい生き方だし、本当にいい映画だと思う。
今作はインドで撮られたイギリス映画だが、多くの俳優がインド人であり、
音楽は、あの「ムトゥ踊るマハラジャ」のA・R・ラフマーンで、やはりすばらしかった!
ラストはインド映画では定番の出演者が揃って群舞するシーンがあって、
例によってストーリーとは関係ないが、それはそれとして非常に後味のよいエンディングだった。
そして最後に冒頭のクイズの正解が提示されるのだが、
それは見て確認してもらうのがいいだろう。
僕もそれを信じてみようと思った。
DATA
イギリス映画/2008年/120分/監督(ダニー・ボイル)/製作(クリスチャン・コルソン)/
脚本(サイモン・ビューフォイ)/撮影(アンソニー・ドッド・マントル)/作曲(A・R・ラフマーン)
/出演(デーヴ・パテル、アニル・カブール、イルファーン・カーン・フリーダ・ピント)
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