「SING/シング」
-SING-


う〜ん、このノリは間違いなくアメリカならではだろう。
二十歳そこそこで目の当たりにしたアメリカという国の陽気さ、自由な雰囲気は圧倒的なものだった。
歴史がないと揶揄されることもしばしばあるが、
多国籍による植民地支配からの独立を経て、多民族国家を形成し、
様々な人種、文化を融合させながら育んできた国ならではの包容力が確かにあり、
とりわけ映画界にはそういった伝統が引き継がれているに違いない。

今作は、タイトル通り「歌うこと」や「音楽」が主役のアニメーション。
ヨハン・パッヘルベルの「カノン」、スタン・ゲッツの「イパネマの娘」、ルチアーノ・パヴァロッティの「トゥーラントッド」、
ビートルズの「ゴールデン・スランバー」、きゃりーぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」など実に多彩な64曲である。
物語は、極めてシンプルにもかかわらず心を掴まれるのは、音楽の力によるところが大きい。
しかしながら、音楽がよければ映画が面白くなるかといえば、そうはいかないことは、
過去の膨大な作品が示しているとおりである。
「もう少し深いところまで探求してみて」とクリスに言われたよ、とジェニングス監督が述べているように、
ストーリーはありきたりであっても、場面設定や人物描写、感情表現などは、よく練られていると思う。
ついでに、カメラワークもとてもよい!

一番好きなシーンは、歌うことに挫折したブタのロジータ(リース・ウィザースプーン)が、
スーパー店内で流れてきたラテンのリズムにのって無意識のうちに踊ってしまうシーン。
それを監視カメラでみていた警備員が、放送マイクを使って、「君のダンスはいけてるよ!」みたいに言うところは、
ちょっと涙が出そうになった。
誰も見てくれてない、評価してくれる人もお金を払ってくれる人もいないとしてもやりたいことこそが何より大切であり、
そうやって損得も計算もなくやっていることを、そっと見てくれている人もいるんだよっていうメッセージが温かい。

登場人物(動物)は、それぞれに事情を抱え、実のところ、賞金10万ドル目当てに集まった面々である。
そもそもオーディションを企画したコアラのムーン(マシュー・マコノヒー)自体が、
自ら経営するムーン劇場の立て直しがねらいである。
言ってみれば私利私欲から始まった歌唱オーディションだったわけだが、
登場人物らの挫折を経て、乗り越えていく間に大切なものに気付いていくという王道ストーリー!
秀逸なのは、登場人物の設定とそれぞれにセットされる持ち歌であろう。
25匹もの子豚たちの母であるロジータが歌うテイラー・スウィフトの「Shake It Off」、
父親との確執に悩むゴリラのジョニー(タロン・エガートン)は、エルトン・ジョンの「I'm Still Standing」を熱唱し、
ヤマアラシのパンク少女アッシュ(スカーレット・ヨハンソン)が歌う書き下ろし曲「Set it All Free」も圧巻だった。
どの楽曲も登場人物のキャラや境遇にマッチしていて、説得力があり、故に感動的であった。

フィナーレを飾るのは、極度のあがり症でステージに立つと歌えなくなるゾウのミーナ(トリー・ケリー)。
スティービー・ワンダーの「Don't You Worry about A Thing」を高らかに歌いあげる。
それは、楽天家のムーンが言う「どん底まで落ちてしまえば、あとは上がるだけ〜」につながっている。
大きなカタルシスに包まれる大団円から切れ目なくエンディングテーマの「Faith」につながる。
久々に聴くスティービー・ワンダーの陽気な歌声とアリアナ・グランデの美しいハーモニーで、
「決して諦めないこと」というメッセージで結ばれる。

実写でもできそうだが、これを見てしまうと、「SING」は、アニメーションでなければできなったように思える。
「アナと雪の女王」、「ズートピア」、「君の名は。」など近年、アニメは豊作であるが、
今作は、その中でもトップレベルの秀作といえる。


DATA
米国映画/2016年/108分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
脚本・監督(ガース・ジェニングス)/プロデューサー(クリス・メレダンドリ,p.g.a.他)/
共同監督(クリストフ・"ゼベ"・ロードゥレ)/ミュージック・スーパーバイザー(ジョジョ・ヴィラヌエヴァ)/
声の出演(マシュー・マコノヒー、リース・ウィザースプーン、セス・マクファーレン、スカ−レット・ヨハンソン他)/
字幕(石田泰子)
 

KINGS MAN