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「世界の中心で、愛をさけぶ」
しみじみ、いい映画。
オープニングの雨のシーンがスクリーンに映し出されて、わずか2、3秒。
まるで秘孔を突かれたようにすぅっとドラマの世界に吸い込まれてしまった。
フィルムの質感、主人公たちの声の響き。
これは、もの凄く気合いを入れて、練りに練って熟成させ、
満を持してテーブルに並べられた「純愛御馳走映画」である。
物語は、現在と過去を行きつ戻りつしながら展開する。
1986年、主人公のサク(朔太郎)とアキ(亜紀)は、高校2年生。
枕元にラジカセを置いて聞く深夜放送。
当時、流行っていたニューミュージック。
ノーヘルだった原付バイクと膝丈まであるスカート…。
主人公らと同年代の私は、独特の色合いで再現される「1986年の世界」へポトンと落ちていた。
そして、二人の淡く純粋な想いは、四国の開放的な風景の中で、
コミカルにときに切なく、一瞬の輝きと情感を紡ぎ出していく。
原作は、今なお売れ続けている片山恭一の同名小説。
映画公開の前日(5月7日付)で、
国内作家の小説最多部数の記録を塗り替えて251万部に達したという。
私は小説を読んでいないのでコメントできないが、
映画単独で見ても、脚本はとてもよくできていたと思う。
心に書き留めておきたいような台詞もたくさんあった。
特にラストシーン、世界の中心(オーストラリア)で朔太郎が初めて聴くアキのメッセージは、
サクへの深い思いやりが感じられるとても素敵な言葉だった。
そして、そのときの朔太郎(大沢たかお)の表情が本当に素晴らしかった。
キャスティングは、とてもよかったと思う。
高校時代のサク役の森山未來、アキ役の長澤まさみは、とても好感度が高く、
こんな高校生ならもう一度やりたい!という気持ちにさせられた。
大沢たかおも実によく、この人が涙を流すシーンはすべて私も泣いてしまった。
一番難しい役柄は、柴咲コウ演ずる律子だろうと思う。
原作にないこの役柄は、主人公の間に入り込む存在で、ともすると「邪魔者」と思われてしまうだろう。
高校生の純愛に焦点を当てたのが原作だとすれば、
生き残った「ロミオ」が過去と決着をつけ、自分を取り戻すために必要な女性が律子である。
強さと同時に内面の優しさが嫌みなくにじむ女優ということで、
柴咲コウというキャスティングになったのだろう。
物語の中で、まるで交換日記のようなカセットテープでのやり取りがあるのだが、
ヘッドホーン越しに聞こえてくる彼、彼女の声は、静かに胸に迫ってくる。
過去のテープを現在の主人公が聴きながら追体験し、
そして、過去を乗り越えてゆくという発想とシナリオは、
この映画が原作とは違う存在感をもつ最大のポイントだろうと思う。
「愛と死」という使い古されたこのテーマで、
ここまで見せる行定監督の才能はすごいと思った。
DATA
日本映画/2004年/監督(行定勲)/製作(本間英行)/
原作(片山恭一)/脚本(坂元裕二、伊藤ちひろ、行定勲)/撮影(篠田昇)/
録音(伊藤裕規)/照明(中村裕樹)/
出演(大沢たかお、柴咲コウ、長澤まさみ、森山未來、山崎努)
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