「シービスケット」
−SEABISCUIT−
 
 
 
「1度や2度のつまづきは、誰にでもある。諦めるか、立ち向かうか。」
作り手の熱い想いが1つ1つの台詞、描写から見る者の心の隅々まで伝わってくる。
これほどまでに胸を熱くする作品に出逢うのは、本当に久しぶりでうれしい。
何年かに1度あるかないか、それほど素晴らしい体験だった。
 
「シービスケット」
1933年に生まれた少し小さなサラブレッドの名前。
この映画は、実在した競走馬シービスケットと馬主チャールズ・ハワード、調教師トム・スミス、
騎手ジョニー・レッド・ポラードの挫折と挑戦の物語。
真実の物語である。
スミス役のクリス・クーパーが「時には、手袋のようにぴったりくる役がある」と語っているが、
なるほど、役者が揃ったという感じで、どのキャスティングも見事にはまっていた。
そして、ボクにとっては、この映画そのものが手袋のように自分の感性に馴染んだ。
インタビューでトビー・マグワイアは、「人それぞれいろいろな見方ができると思う」と前置きしたうえで、
「この作品は、負け犬が成功を掴む話」と語っている。
なるほどそうであり、ボクもまたその点に存分に共感した。
また、この物語の根底には、合理化されてゆく社会への風刺や
富や権力に対する大衆の力なども描かれていて、奥深く、見所は実に多い。
 
映画が始まってすぐ感じたのは、テンポの良さ。
どんな映画でもはじめのうちはある種の「説明」を要するために、
大なり小なりまどろっこしさや理解するのに頭が疲れたりもするが、
この映画は絶妙なコマ割とカメラワークで、状況説明や主人公のキャラクターなどをどんどん見せてくれる。
例えば、J・ブリッジス扮するハワードが息子に声をかけるシーン、それから、ソファーで嗚咽するシーン。
ホントに少しずつの描写にもかかわらず、この親子の絆の深さが十二分に伝わってくるのはスゴイ!
ボクは「ガープの世界」でジョージ・ロイ・ヒルが使った極短いシーンを連続的につなげてゆく手法を思い出した。
 
この映画が放つテーマは、ずばり「人間の再生」だろう。
「七転び八起き」といってもいいが、ボクの印象は、「転んだら起きる」という以上に、
転んだ経験こそが大切なんだというより前向きなメッセージに感じられた。
何も挑戦せず危険を冒さなければ傷つくこともないが、
それでは何ひとつ得るものはなく、何かを創造することもできないだろう。
登場人物たちは、それぞれに挫折を味わっている。
傷ついて挫折し、それでも挑戦する。
「ちょっとのケガで、命あるものを見殺しにすることはないさ。」
何でもないような台詞でも、演出効果もあって、すぅ〜と心に染みてくる。
人は、たった独りきりになっても戦う覚悟があれば道は開ける、
ということをこの映画は、さまざまなエピソードや台詞を通じて、ボクたちに教えてくれる。
 
製作総指揮にも名を連ねるトビー・マグワイアは、騎手役のために約10kgもの減量を行ったという。
名優R・デニーロばりの奮闘だが、自らの生い立ちにもだぶるということで、
レッド役として他に考えられないほどマッチしている。
J・ブリッジスやC・クーパーも本当に味わい深い素晴らしい演技をしているから、
どの人にも感情移入できる。
最近のハリウッド映画にはない、久しぶりに内容の濃い作品で、
CGではない競馬シーンの迫力、そして美しさにも圧倒されるに違いない。
大いに大いにオススメの映画である。
 
 
 
DATA
アメリカ映画/2003年/監督・制作・脚色(ゲイリー・ロス)/製作(キャスリーン・ケネディ、フランク・マーシャル)/
原作(ローラ・ヒレンブランド)/音楽(ランディ・ニューマン)/
出演(トビー・マグワイア、ジェフ・ブリッジス、クリス・クーパー、エリザベス・バンクス)/