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「愛の賛歌」
-SONG OF LOVE-
古い映画である。
第3回あつぎ映画祭(2014.3.9)で脚本家・古沢良太氏のトークショーを聞きに行った際に、
同時上映されていたので、「ついでに見た」ようなものだが、なかなかの秀作だった。
山田洋次監督36歳、ちょうど10本目の監督作品である。
タイトルから想像するのは、エディット・ピアフの同名曲の影響だろう、
ヨーロッパの都会的な男女が織り成す大人の恋模様ってところだが、
何しろ山田洋次監督であるから、そうはならない。
都会どころか、瀬戸内の小さな島が舞台である。
波止場前にある食堂兼切符売場「待帆亭」の店主・亀井千造(伴淳三郎)に息子の竜太(中山仁)がいて、
店で働いている春子(倍賞千恵子)と恋仲になっている。
竜太は厳しい父親から独立したい一心でブラジル行きを決意するが、
春子を残して行くことに迷いもある。
その辺り、行く行かないのやりとりがあって、渡航した後には、春子が身ごもっていたり、
生まれた子を不憫に思った診療所の伊作(有島一郎)が養子に迎えたり、
二人が家族同然に暮らす中、竜太が帰ってきたり、次々と騒々しいドタバタ劇が展開する。
待帆亭はあたかも「男はつらいよ」の草団子屋とらや(40作以降は、くるまや)である。
千秋実扮する船長や旅館の主人(太宰久雄)、盲目の按摩師(渡辺篤)、郵便屋などが常時入り浸って、
事の次第にクビを突っ込む。
寅さんの役回りは、さしずめ千造だろう。
癇癪もちの頑固親父だが、周囲へのさり気ない気配りや息子への深い愛情が垣間見え、
「地震雷火事親父」と云われた時代の古きよき父親像を見るようである。
ブラジルへ渡った息子から届いた手紙を春子に読ませるシーン、
それに返事を書かせるシーンは、可笑しさと哀しさが入り交じって、笑って泣けてしまう。
山田監督は、今作の2年後から「男はつらいよ」を撮り始め、
以後48作続く長寿シリーズ(ギネス認定)となっていくのだが、
その原点は今作の中にもあるように思える。
平凡な暮らしの中での珍騒動を描きながら、
人と人の絆や義理人情の世界を笑いと涙で包んでいく。
平成の時代になると、余計なお節介は嫌われ、
人間関係はよりスマートに、接客は丁寧なマニュアルに取って代わっていくのだが、
いざ無くなってしまうと、昭和の頃の煩わしささえもが懐かしくなってくる。
「愛の賛歌」と古沢良太氏には特に関連はなく、トークショーでも言及されなかったが、
両者には大きな類似性が感じられた。
それは、主役と脇役の扱いが対等で、登場人物全員の物語になっていること。
「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「キサラギ」(07)などが正にそうで、
登場時間の違いこそあれ、人物描写にかける重みは全く同じといっていい。
聞き手の横内謙介氏(劇作家)も指摘していたが、古沢氏の脚本の巧みな伏線には、
伏線のための伏線がなく、登場人物の配置や行動のすべてに必然性がある点が見事なのだ。
この日の映画祭で感じたことを一言でいえば、
「三銃士」の言葉、「All for one, one for all」に近い。
DATA
日本映画/1967年/94分/カラーワイド/
監督(山田洋次)/製作(脇田茂)/
脚本(山田洋次、森崎東)/音楽(山本直純)/原作(マルセル・パニョール)/
出演(倍賞千恵子、中山仁、伴淳三郎、有島一郎、千秋実、渡辺篤)/
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