「SAND LAND」
予備知識もなく、なんとなく観た。
鳥山明さんの作品が特に好きということもなく、「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」をテレビアニメで観ていた程度だったが、
今作には思いっきり圧倒された。
「鳥山明ワールドの最高峰」、「伝説の名作」という謳い文句のとおり、文句なし100点満点の作品だった。
鳥山さんは、難しい話は苦手で、とにかく読者が気楽に楽しめるものを描いているという主旨のことを何かで読んだことがある。
意外にも、地味目で軽いマンガが好みだそうだ。
ベジータにちょい似の主人公ベルゼブブ(田村睦心)もノリは軽いし、お目付役のシーフ(チョー)も超軽~い。
さらに悪党一家「スイマーズ」や盗賊団も全然怖くなくて、どこから見てもお茶目で可笑しい。
一種のロードムービーだが、道中に散りばめられたくだらない台詞や小ネタがいちいち面白かった。
今作の魅力は、主人公・悪魔の王子ベルゼブブの決め台詞「悪魔よりワルだなんて許せね~」に集約されている。
「夜更かししたうえに歯も磨かずに寝てやった」とワルぶってるのがカワイイ(笑)。
自分が一番ワルでいるために、本当に悪い奴と戦っていく物語なのだが、
その悪い奴というのが人間なのである。
自然を破壊したり、戦争をして殺し合ったり、貴重な資源を独占したり…。
まさに今、世界中で進行形の姿がありありと描かれている。
原作は2000年に発表された作品だが、この四半世紀で世界情勢はさらに悪化しているとしか思えない。
ウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻、異常気象、独裁国家、格差社会など問題山積で、
人類の未来に希望が感じられない。
子供たちの子供たちの子供たちはどんな世界を生きるのだろうか、とても心配になる。
人間の深刻な悪や業を題材にしつつ、軽妙なタッチで描く本作は、
容易には理解しにくい宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」と対象的な印象だった。
個人的には、前者の作風の方が好みだ。
難しい話を難しいまま表現する方法も嫌いではないが、
作者独自の解釈・手法でわかりやすく表現しているものにこそ才能を感じ、ひたすら敬服してしまう。
パンフレットにあったラオ役の山路和弘さんのコメント、
「この作品、人間の本性に対する警鐘です。どうぞ劇場に心を洗われにいらしてください。」は真実である。
見終えたときに、心がきれいになったような気がした。
後から原作本を読んだが、映画の仕上がりの素晴らしさを改めて感じた。
横嶋監督をはじめとする制作陣は、原作に忠実かつ鳥山ワールドの映画化に惜しみなく尽力したのだ。
鳥山明さんは、今作が公開された2023年8月からわずか半年ほど経った2024年3月1日、68歳で急逝してしまう。
2024年9月1日、公開1周年記念上映があったので、行ってみた。
舞台挨拶で登壇した横嶋監督と田村さんが、今作への熱い思いと人気について語ってくれた。
横溝監督ははにかみ屋でとても優しそうな印象だったが、内に熱い情熱をもった人なのだろう。
ベルゼブブの声で話す田村さんを目の当たりにして、「絵」に命を吹き込む声優さんの力に感動してしまった。
満席の会場は、「愛」以外の何物でもないもので満たされていた。
TOHOシネマズ六本木
DATA
日本映画/2023年/105分/ビスタサイズ
監督(横嶋俊久)/原作(鳥山明)/脚本(森ハヤシ)/
出演(田村睦心、山路和弘、チョー、鶴岡聡、飛田展男)/音楽(菅野祐悟)