「翔んで埼玉」


B級感あふれる映画にもかかわらず、空前のロングラン!
埼玉の自虐ネタ満載なのに、結果的には埼玉の大宣伝映画になっている!
埼玉県人さえ知らなかった「埼玉ポーズ」もすっかり有名になった。
そもそも、「佐賀県」が有名なピン芸人はなわが埼玉県人だったなんて知らなかったぞ!(笑)
とにかく、小ネタ満載で、最初からエンドロールまで楽しみ尽くせる作品である。
原作は30年以上も前に書かれた魔夜峰央の未完の作。
なぜか2015年にネットで話題になり、復刊されて69万部もの大ヒットになっているのも驚きである。

映画は、伝説パートと現代パートがあって、絶妙に入り交じる。
この入れ子構造は武内監督の発案のようだ。
リアルな埼玉ディス描写がギャグではなく不快感にならないような配慮である。
この辺のバランス感覚が肝要だが、最も難しいところでもある。
確かに、一見不要にも思える現代パートがあることによって、
伝説パートはあくまで「都市伝説」というところに落ち着く。
現在と過去を行き来する描き方は、「テルマエ・ロマエ」(12)の武内監督ならではの力量が感じられる。
その昔、東京都民から凄まじい迫害を受けていた埼玉県人という設定やそのぶっ翔んだ描写も可笑しい。
東京にある名門校「白鵬堂学院」の生徒会長・壇ノ浦百美(二階堂ふみ)と
アメリカ帰りの転校生・麻実麗(GACKT)の二人がいて初めて、この映画は成立したともいえる。
魔夜峰央ならではの妖艶なキャラクターが面白いし、敵対感情から愛情へ、同士へと変わっていくところも見所だった。
これまで二階堂ふみは何となくキライだったが、今作のピュアな役柄ですっかり好感度が増した。
GACKTはあまり知らなかったが、気品あふれるセレブ感が、魔夜ワールドを体現していて説得力があった。
そして、こんなにもすごいGACKTの父を演じて圧倒的な存在感を見せた京本政樹が実に格好よかった!

この作品がなぜ、今、ヒットしたのだろうか。
勝手に深読みすれば、キーワードは、極端なヒエラルキーのように思える。
巨大な権力を握る都知事(中尾彬)の娘というだけで、百美はやりたい放題である。
一方、埼玉出身がゆえに、みすぼらしい服装でひざまずくしかないZ組の生徒たち(加藤諒ほか)。
「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」という台詞がギャグでありつつも、
真に迫ってくるのは、リアルに感じてしまう現実があるからだろう。
先の参議院選挙で、俳優の山本太郎氏が代表を務める「れいわ新選組」が結党からわずか3ヶ月で、
2議席獲得という快挙となった。
票を投じたのは、病気や障害、様々な理由で生活苦に喘ぎ、将来に希望がもてない人々だったともいわれる。
長期政権を担う安部首相は、在職期間が歴代3位となり、このまま任期満了となれば、
憲政史上最長になるそうだ。
民主政権の失政を受けて、経済の立て直しに取り組んでいる安倍政権。
アベノミクスは失敗していると指摘する専門家も少なくないが、当事者らが決して認めず、
次々と矛先を変えるうちに思考停止になってる気もする。
「1億総活躍社会」、「人生100年時代」、「働き方改革」などスローガンが矢継ぎ早に出てくる。
その一方で、モリカケ問題のような疑惑が生じているのだが、そのたびに数の力に物を言わせて封じ込めていく。
反論すれば圧力がかかり、干される。
選挙に勝つことが目先の目的となっている議員にとっては、
反論するよりも、忖度した方が得策なのだろう。
日本中がそういう風潮になっている中で格差が広がり、ヒエラルキーが強固になる。
自己責任論をも負わされた人々が何とか底辺に落ちないようにもがいている。
持たざる者が奪い合い、いつしか良心を忘れていく様は、「蜘蛛の糸」のように思えてしまう。
その時代固有の空気を読み、吸い込んで生きているうちに、社会はできあがっていくのだろう。
自虐ネタで笑えるように綿密に映画が作り上げられているように、
この世の中も巧妙に仕組まれているといっていいのかもしれない。


DATA
日本映画/2019年/106分/カラー/
監督(武内英樹)/製作(石原隆、村松秀信、遠藤圭介.)/
脚本(徳永友一)/原作(魔夜峰央)/音楽(Face 2 fAKE)/
出演(二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介、ブラザートム、麻生久美子、加藤諒、竹中直人、京本政樹ほか)
 

KINGS MAN