「塔の上のラプンツェル」
−Rapunzel−
 
 
 
100点満点である。
ここまでいい作品に出会うと、言葉がでない。
ただただ、誰彼となく観て欲しくなる。
といってあまり過剰に期待を抱いて観ると、拍子抜けということもあったりするのだが、
今作についてはその心配さえないだろう。
「さてさて、どんな映画だろう?」と腕組んで考え込む間もなく、
誰もがあっという間に、限りなく美しく魅力あふれるファンタジーの世界に入り込んでしまうに違いない。
 
ディズニー長編アニメーション第50作に当たるという。
題材となったのは、その第1作「白雪姫」と同じグリム童話。
「昔々、太陽の雫が地上に落ちてきて、綺麗に輝く黄金の花になりました。
その花には不思議な力があって、病気を治したり、命を若返らせたりという言い伝えがあったのです。」
そんなお伽の国には例によって悪い魔女がいて…、と物語はつづいていく。
ちなみに、主人公の王女の名前になっている「ラプンツェル」とは、元々は野菜の名前。
最近ではベビーリーフにもよく使われるマーシュ(コーンサラダ)のことで、
原作ではこの野菜が大好物な王様が出てくるそうだ。
 
それほど多くのディズニー映画を観ているわけではないが、
今作の完成度は群を抜いてるのではないだろうか。
シンプルな粗筋を幾つものアイデアが詰まったエピソードでつなぎ合わせ、
たくさんのユニークなキャラクターが随所に登場し、しっかりと伏線を張っている。
単なる脇役それぞれにも明確な性格付けと役割が備わっていて、
まるでオーケストラのような味わいがある。
ラプンツェルが飼ってるラスカルというカメレオンや猪突猛進な白馬のマキシマスなど、
極端に擬人化された動物たちの行動も実にユニークで面白い。
 
物語を牽引していくラプンツェルとフリン・ライダーの人物像もなかなか魅力的だ。
自由奔放なライダーとは対照的に18年もの間、高い塔の中に閉じこめられていたヒロインではあるが、
ハツラツとした心と優しい気持ち、そして健やかな身体が育まれている。
長期間引きこもっていたにもかかわらず、彼女は限られた空間の中でノビノビと絵を描き、
料理や裁縫、ダンスやヨガもやって、歌や読書も欠かさなかったのである。
譲り受けたDNAもよかったのかもしれないが、ともかく、
好奇心旺盛で元気いっぱいな美女なのも納得の設定になっている。
 
この作品の中には、実に多くのメッセージが包含されている。
たとえば、夢を諦めないことの大切さやいざというときの勇気の必要性だったり、
「情けは人のためならず」といったことなどをドラマチックに盛り込んでいる。
中でも特に心を打たれるのは、長期間幽閉されていた主人公が自由を求めて、
塔の外へと足を踏み出すシーンである。
奇しくも無数の青い鳥が飛び立ち、場面を盛りあげるのだが、
安住の地に甘んじていては夢は叶わないということだろう。
アメリカ大陸に息づくフロンティア精神は、ディズニーの伝統でもあったのかもしれない。
ちなみに製作総指揮には「トイ・ストーリー」や「カーズ」といったピクサーアニメの中心人物
ジョン・ラセターが名をつらね、脚本のダン氏も「カーズ」のシナリオを書いた人で、納得である。
 
目を見張る映像と美しい音楽、そして深遠な哲学がワクワクするようなスピード感で映し出され、
極上の気分に盛りあげて幕を閉じる。
数年に一度出会えるかどうか。
というくらいとても大切な作品となった。
 
 
 
TOHO上大岡
 
DATA
米国映画/2010年/101分/
監督(ネイサン・グレノ、バイロン・ハワード)/製作(ロイ・コンリー)/
製作総指揮(ジョン・ラセター、グレン・キーン)/脚本(ダン・フォーゲルマン)/
音楽(アラン・メンケン)/翻訳(松浦美奈)
日本語出演(中川翔子、畠中洋、剣幸、飯島肇)